先日、インドネシア語能力試験のトライアルに参加するという貴重な機会に恵まれました。この試験は日本で言うところの国立国語研究所が開発しているものです。
当面はインドネシア各地にて、いわゆる「ベータ版」を実施。ゆくゆくはTOEFLやTOEICのインドネシア語版のような試験になるとのことです。
そこで、今回はインドネシア語能力試験と、私も受けたことのあるTOEICを比較してみたいと思います。
目次
インドネシア語学能力試験とは?
「インドネシア語能力試験」は長いので、以下、「UKBI」とします。
この試験はインドネシア語で「Uji Kemahiran Berbahasa Indonesia」と言うのですが、その頭文字を取っています。
インドネシア語学能力試験とTOEICの試験概要比較
まず、試験の概要を表にまとめてみました。
セクション | UKBI | TOEIC L&R | TOEIC S&W |
---|---|---|---|
聴解 | 30分 40問 | 45分 100問 | - |
言語知識 (文法、語彙など) | 20分 25問 | 75分 100問 | - |
読解 | 45分 40問 | - | |
ライティング | 30分 1問 ※ | - | 60分 8問 |
スピーキング | 15分 1問※ | - | 20分 11問 |
※ 今回のトライアルでは実施されず
TOEICとの相違点
まず目につく違いが、TOEICでは2つにわかれている試験が、UKBIでは1つにまとまっている点!総合的な力を測定することができそうです。
ただ、注釈にも書いた通り、今回、スピーキングとライティングは実施されませんでした。
スピーキングは間が持つのか?
スピーキング1問で15分って。
15分、延々と1人で喋らされるのでしょうか。
そんなことになったら、間が持たないのは間違いありません。どんな試験か、めっちゃ気になる……。
言語知識と読解が別のセクション
それから、UKBIでは、言語知識と読解が別のセクションになっています。TOEICは2つ合わせて読解。ざっくりしてるなあ。
私がTOEICを受けていたときは、言語知識の問題を瞬殺で片付けて、読解に時間をかけていたのですが、UKBIではこれができないということですね。
セクション内容は同じ
まあ、どんなセクションがあるか、という観点で見ると、UKBIもTOEICもほぼ同じと言えます。その他の共通点として、次の3点が挙げられます。
共通点
心配な点
一つ心配な点があります。聴解が一発目というところです。
聴解は当然音声を聞き取らないと問題が解けません。
TOEICも聴解が一発目ですが、この国でそれをして大丈夫かな……。
何せ、今回、8時開始と招待状に明記してあるのにもかかわらず、8時の時点で人影はまばら。9時にようやく始まったのですが、こんなことは日常茶飯事なのです。
ちなみに日本語能力試験では、聴解の試験は最初には実施しません。
「遅刻して聴解の初めの方の問題、解けんかった!」ということにならないように、という配慮からだと聞いたことがあります。優しい。
そのほかのTOEICとの相違点
次に、表から読み取れない相違点をご紹介します。いろいろあるのですが、衝撃的だったものをベスト3から書いていきますね。
【第三位】間違い探しの問題形式がユニーク!
まず第3位は、間違い探しの問題形式がユニークなこと。
今回、聴解の試験の後、言語知識を問う問題に移りました。この問題は文法や語彙などの間違い探しですが、TOEICのそれとは一味違っていました。
TOEICの間違い探しはすでに廃止されているとのことなので、日本語で再現してみます。
例
まさるさんは 1.時々「めそ」と 2.言うが、それが 3.何かどうか、誰も 4.わからない。
下線が4箇所にあり、間違っているものを選ぶというものです。この問題ではもちろん3です。
これに対し、UKBIの間違い探しは、こんな感じでした。
例
「めそ」の中に何が入っているかについて、1. に関して 2. につき
昨日知恵袋で質問します。3.してみます 4.しました
問題文の2箇所に下線があり、まずどちらが間違っているか考えます。そして、下線部に2つある選択肢から、正しいものを選びます。例だと答えは4ですね。
これだと、「します」が間違っていると分かった時点で、「1.に関して」と「2.につき」は選択肢から外れます。受験する側としてはありがたいですね。
ただ、試験を作る立場で考えると、最後までできるだけ数多くの選択肢で頭を悩ませてほしい……と思ってしまいます。性格がいいので(笑)
ちなみに私自身このような形式の問題は初めてでしたが、馴染みがないのは私だけではなかったようです。「どうやって答えるん?」という質問が他の参加者から出ていました。
【第二位】マニアックな表記まで問われる
では、第2位。マニアックな表記まで問われる!
これも間違い探しの一環です。大文字か小文字か、くっつけて書くか離して書くか、引用符を使うかなど、重箱の隅をつつくような問題が盛りだくさん。
日本語能力試験で、括弧(かっこ)の使い方を聞いているようなものです。
英語にも正書法に準じるものはあるとのことですが、TOEICで問われることはありませんよね。
私は普段インドネシア語を書くことはあっても、せいぜい同僚や友人と携帯でメッセージをやりとりする程度。よって、撃沈でした。
たまーに正式な書類を作ることもありますが、その際は必ず同僚にチェックしてもらっています。一人でできないもん。
【第一位】インドネシア人も対象!?
最後に、堂々の第1位!
何と、このUKBI、インドネシア人も対象なのです!
と言うより、もともと受験者としてはインドネシア人を想定していて、外国人も対象になっている、と言ったほうがいいのかもしれません。
たとえばTOEICは英語を母語としない人向け、日本語能力試験は日本語を母語としない人向けです。
今回のトライアルに参加したのは50名ほどでしたが、私以外は全員インドネシア人でした。平均点下げてないかなあ……。
ちなみに受けていたのはインドネシア語(国語)の先生や、インドネシア文学を専攻している学生がメインだったそうです。
そして、インドネシア人向けの試験なので、先ほどの「日本語能力試験で、括弧の使い方を聞いているようなものです」という文には、多少誇張が入っていることがバレたかもしれません(笑)
なぜインドネシア人が対象に?
そんなUKBIですが、そもそもどうしてインドネシア人が対象になっているのでしょうか。
実は、インドネシアでは地方語が母語であるというケースがほとんど。インドネシア語は公用語ではあるものの、母語ではない場合が多いのです。
それゆえに、インドネシア人向けに試験を作る必要もあるのかもしれません。
実際、試験終了後、私がわからなかった問題の答えを隣のインドネシア人に聞いてみましたが、「それ、俺もわからんかった」と言われてしまいました。
また、後日、同僚のインドネシア人の先生に聞いたら、「難しいですね」と……。
そして、こんな話を思い出しました。私、学生時代にインドネシア語を専攻していたのですが、とある先輩が今、首都ジャカルタで会社を経営されています。
その先輩はもちろん日本人なのですが、たまに「インドネシア語をチェックしてください」と、インドネシア人のスタッフから依頼があるとか!
きちんとしたインドネシア語を学んでいるはずだから、ということだそうですが、日本ではありえない話ですよね。
なぜ外国人も対象に?
どうして外国人も対象になっているのかというと、私のように、純粋に語学の試験が好きな奴を受験者として想定している……わけはないと思います。
今、外国人がインドネシアで労働ビザを取得する際に、UKBIのスコアを必須条件にするという動きがあります。
その昔、オランダや日本に占領されたという苦い経験を持つインドネシア。いまだに長期滞在する外国人に対してはアレルギーがあるのかもしれません。
私もビザ取得に1年ぐらいかかりましたし……。
ただ、そこは聴解の試験を最初に行わない、日本語能力試験並みの優しさで運用してほしいなあ、と思います。むしろ外国人向けに試験を別に作ったほうがいいんちゃうかなあ……。
追記: 試験の結果
試験結果を教えてほしいと係の方に言ってみたのですが、返事はものすごく後ろ向き。結果は出ないとばかり思っていたのですが……。
何と、出してくれました!
スコアは600点で、直訳すると「優」のカテゴリーだそうです。パンフレットによると、上から3つ目なので、ちょっと微妙。
そもそも、パンフレットにも載っている「書く」技能、「話す」技能については試験をしていないし、どうやって点数を出したのか不明です。
しかし。軽食に昼食、お車代も出してもらった上、試験結果も賞状風の用紙でいただいたわけで。
文句言ったらバチが当たりそうですね(笑)
まとめ
インドネシア語能力試験、最大の特徴は、対象がインドネシア語を使う人全員だということではないでしょうか。
私、外国語の試験が大好きというマニアックなタチなので、今回の試験を楽しみにしていたのですが、残念ながらそれを上回るマニアックさに打ちのめされました。
今回は時間が足りなかったのですが、外国語の試験でこんなことになったのは、おそらく初めて。ちょっと悔しい。
さらに、今回、点数は教えてくれないとのことです。うーん……。ライティングとスピーキングの試験をしていないし、β版だから仕方がないのかもしれませんが……。出してくれました! 上で追記として書いています!
ただ、点数は出してくれないものの、軽食2回に、昼ご飯と車代まで出してくれたので、そこは大満足。インドネシアの国立国語研究所、お金持ってます(笑)