
こんにちは! 発音マニアのヨスです。
今回は、日本の通貨「円」についてです。
これ、英語で書くと「 EN 」ではなく、「 YEN 」なのを知っていますか?
なぜなんだろう?……と思っていましたが、謎が解けました!
日本の通貨「円」を英語では?
日本の通貨「円」ですが、発音は「えん」です。当り前ですよね。
ところが、「円マーク」って「 Y 」にチョンチョンを付けた「 ¥ 」じゃないですか?

なぜだと思いますか?
実は、英語で「円」を……
YEN
と書くからなんです!
もちろん、英語ではその表記通り「イェン」のように発音します。
なぜ「YEN」なの?
では、なぜ「YEN」なのでしょうか? いつも「えん」と発音している現地の我々にとってみれば……

なんで「 Y 」があるねんっ!!!
……というツッコみを入れずにはいられませんよね。
音声学が大好きなわたしは、きっと音声上の問題だろうと思っていました。
ところが、どうやら歴史的な背景があるそうなんです。
大昔から「YEN」と綴っていた
調べてみると、言語学よりも歴史的な理由でした。
まず前提として、「英語には一度採用された綴りを変更しない傾向がある」ということ。
なので、綴りとして「yen」と書くこと、発音することがすでに確立されていれば、「en」と発音することはまずありません。
実は、大昔、最初に「円」という通貨に触れた英語圏の人が「yen」と綴っていたことが発端になります。
じゃあ、そもそも昔の方がなんで「yen」と綴っていたと思いますか? ここにカギがあるんですよ。
そもそも、当時の日本人が「円」を「yen」と発音していたからです!
「恵比寿(ゑびす: Yebisu)」も同じ理由ですね。
明治時代初期(江戸時代末)に日本を訪れた英語圏の方、さらにさかのぼると、16世紀でも、ポルトガルの宣教師が「yen」と綴っていました。
「エ」「ヱ」「江」の発音
なぜ昔の日本人が「円」を「yen」と発音していたのかを紐解くためにこちらを見てください。
ア行 | ア (a) | イ (i) | ウ (u) | エ (e) | オ (o) |
---|---|---|---|---|---|
ヤ行 | ヤ (ya) | - | ユ (yu) | - | ヨ (yo) |
ワ行 | ワ (wa) | - | - | - | ヲ (o) |
説明不要ですが、日本語の「ア行」「ヤ行」「ワ行」です。
なんで「ヤ行」と、「ワ行」も中途半端にしかないのかと、疑問に思ったことはありませんでしたか?
では、今度は元来の「ア行」「ヤ行」「ワ行」を見てください。
ア行 | ア (a) | イ (i) | ウ (u) | エ (e) | オ (o) |
---|---|---|---|---|---|
ヤ行 | ヤ (ya) | - | ユ (yu) | 江 (ye) | ヨ (yo) |
ワ行 | ワ (wa) | ヰ (wi) | - | ヱ (we) | ヲ (wo) |

なんと! 現在よりもカナが多い!
「ヤ行」には「江(ye = イェ)」という発音、さらに「ワ行」には「ヰ(wi = ウィ)」「ヱ(we = ウェ)」という発音がちゃんとあったんですよ。
さらに、「ヲ」の発音も現在は「オ」と同じ「 o 」になっていますが、元々は「 wo(ウォ)」という発音だったんですね。
ここで注目したいのが「ye」の発音(発音記号では [je])です。
この発音ですよ。昔の日本語では一時的に「円」を「yen [jen]」と発音していたということなんですね。
当時の方が、その発音をそのままアルファベットにして「yen」と書いたから、現在もそのまま「yen」と書くんです!
当時のひらがなでは「円」は「ゑん」と書いていたそうです。ややこしいですが「ゑ」が当時は「ye」と発音されていました。現在は「え」と同じになっていますが。
ほかの説もある
あと、日本銀行の公式サイトに、3つの説が掲載されていたので、こちらも紹介します。
【1】発音上の理由
まずは発音上の問題という話。
「EN」は外国人が発音する「エン」より「イン」に近いものになるとして、Yをつけて「YEN」としたのではないかとの説です。ちなみに、幕末日本を訪れた外国人の記録には、「江戸」を英語で「YEDO」と表現したものがあります。
円のローマ字表記が「YEN」となっているのはなぜですか? : 日本銀行 Bank of Japanより引用しました。
つまり、日本人の発音する「えん」という発音が、英語の「en」という発音よりも「yen」に近いという理由ですね。
これ、わたしが思っていた理由に近いです。
特に単語が続く場合、「yen」のような発音になることが多いですから。
いちえん、にえん、さんえん、よえん、ごえん、ろくえん……
とくに、「1円」「2円」あたりの発音は、「yen」に聞こえます。「ち」も「に」も「い段」の発音だからでもありますが。
ただ、この記述の「『江戸』を『Yedo』と記載していた」という部分ですが、当時の日本人が「yedo」と発音していたからだと思います。
【2】諸外国の語句との区別
お次は、ほかの言語との区別するという理由です。
「EN」は、オランダ語では「〜と」、「そして」の意、スペイン語、フランス語では「〜の中に」の意を持つ、よく用いられる語であるため、これらと同じ表記を回避したとの説です。
円のローマ字表記が「YEN」となっているのはなぜですか? : 日本銀行 Bank of Japanより引用しました。
オランダ語の「EN(〜と)」と、スペイン語、フランス語の「EN(〜の中に)」という言葉があって、それらの言語の中で「円」も「en」と綴るとややこしいからという説です。
オランダと日本の交易もあったので、そういう理由もないとは言えないかも。
【3】中国の「圓(ユアン)」からの転化
そして、中国の通貨「元(yuan)」の発音から転じたという話です。
中国の「元」紙幣は、表に「〇圓」、裏に「YUAN」と表示されていました。これが「YEN」に転化したとの説もあります。
円のローマ字表記が「YEN」となっているのはなぜですか? : 日本銀行 Bank of Japanより引用しました。
うーん。これはムリがある気がします。だって転じる理由がありませんから。
音声学的にも「yen」で良かった
いろんな説を見てきましたが、当時の人間は生きていませんからどれが正しいとは断言できないでしょう。
でも、最初に紹介した英語版Wikipediaに書いていた理由(当時の日本人が「yen」と発音していたから)が一番説得力がある気がします。
あと、音声学的に言っても、「en」という発音ではなく、「yen [jen]」という発音で良かったとわたしは思っています。
たとえば、「円」は通貨なので、多くの場合、数字のあとに続きます。もし「en」と読んだときの例を挙げます。
- one en(1円)
- two en(2円)
- three en(3円)
- four en(4円)
- five en(5円)
- six en(6円)
- seven en(7円)
- eight en(8円)
- nine en(9円)
- ten en(10円)
- a hundred en(100円)
- a thousand en(1,000円)
とくに「hundred」や「thousand」のあとに「en」がくっつくと、まるで1つの単語のように聞こえる気がします。
「hundreden」や「thousanden」のように。
語源「en」を名詞や形容詞の後ろにくっつけると、動詞になるのをご存じですか?
- whiten(白くする)
- sharpen(鋭くする)
- strengthen(強くする)
- frighten(怖がらせる)
- brighten(明るくする)
まるでそんなふうに聞こえるかもしれません。
つまり、通貨は常に数字を表す単語の後ろにくっつく言葉なので、「母音」からはじまると、別個の1つの単語として区別することが難しい気がします。
そういった理由でも、「en」の前に子音「 y 」をはさみ、「yen」となったのは良かったと思います。
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さて、今回はちょっとマニアックな話題でしたが、「円」を英語でなぜ「yen」と書くのかというお話でした。
いろいろ説がありますが、英語圏の人が最初に「円」という言葉を聞いた当時、日本人が「yen」と発音していたという可能性が高いと思います。
ちなみに、日本語は文字を見ても「どう発音するのか?」がわからない言語なので、こうやって外国の方の記録から当時の発音がわかるというのも面白いですよね。