英語などの外国語で話をしていると、コミュニケーションがスムーズにいかないことがありますよね。
自分が使いたい単語を忘れてしまったり、相手が何と言っているのかわからなかったり。
そんなときでも、ちょっとしたコツを知っているとコミュニケーションを続けることができます。
この記事では、そんな「コミュニケーション・ストラテジー」について解説します。
目次
コミュニケーション・ストラテジーとは?
「コミュニケーション・ストラテジー」とはなにを指すのでしょうか。
「ストラテジー」は「戦略」という意味で、「コミュニケーションのための戦略」とも言えます。
『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 分野別用語集』には、次のように解説されています。
言語力の不足などによりコミュニケーションがうまくとれない場合にとる方略のこと。
ヒューマンアカデミー著『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 分野別用語集』(2018年 翔泳社)
コミュニケーションがスムーズにいかないときでも、なんとかコミュニケーションを進める方法ということですね。
さらに、次のようにも書かれています(太字はサトによる)。
回避・言い換え・意識的な転移・援助要求・ジェスチャーなどがその例である。
ヒューマンアカデミー著『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 分野別用語集』(2018年 翔泳社)
例にある「ジェスチャー」というのは想像しやすいのではないでしょうか。
たとえば大きさを伝えたいときに、ことばで言えなくても、両手で大きさを示すとかんたんに伝わります。
つまり、自分の英語が相手に伝わらなくても「ジェスチャー」というコミュニケーションストラテジーをつかえば伝わるということです。
では「コミュニケーション・ストラテジー」がどのようなものなのか、「ジェスチャー」も含めて次項で解説します。
コミュニケーション・ストラテジーの例
つづいて、コミュニケーション・ストラテジーの例を見てみましょう。
次の5つについて、順にご説明しますね。
回避
まず、1つ目のコミュニケーション・ストラテジーが「回避」です。
「回避」というぐらいなので、なにかを避けるわけですが、どんなものを避けるのでしょうか。
それは、大きく次の2つです。
「回避」するもの
- 難しい話題
- 難しい文法・表現など
難しいものを避ける、というのは共通していますね。
順に見ていきましょう。
「難しい話題」を避ける
まず、コミュニケーションストラテジーとして回避するのは「難しい話題」です。
たとえば、わたしはインドネシアに住んでいて、日常会話レベルのインドネシア語は話せます。
ただ、わたしのインドネシア語のレベルでは、ついていけない話題もあるのです。
次のような話題は、自分からは取り上げませんし、取り上げられても、別の話題に変えてもらうようにしています。
わたしが「回避」する話題
このように「難しい話題」を避ければ、コミュニケーションが続くわけです。
「難しい文法・表現」などを避ける
つづいて、コミュニケーションストラテジーとして回避するのは「難しい文法・表現」などです。
使い方がよくわからない文法や表現などを避ける、ということですね。
たとえば、誰かにカバンを持ってもらいたい場合、次の表現が使えます。
例
I'd like you to carry my bag.
(カバンを持ってほしいんだけど)
ただ、語順が少し複雑かもしれません。
「I'd like to〜」を使い慣れていると、「I'd like you to〜」は余計に難しい……。
このような場合、たとえば次のように言うといいでしょう。
回避の例
This bag is heavy. Can you help me?
(このカバン、重いんだ。手伝ってくれない? )
「I'd like you to〜」を使うのを避けた上で、目的は果たせます。
このように、「難しい文法・表現など」を避けるのが、2つ目の「回避」です。
言い換え
コミュニケーション・ストラテジー、2つ目は「言い換え」です。
「言い換え」は想像しやすいと思うのですが、あることばを別のことばで言うことですね。
たとえば、わたしは日本語の授業で、自分の甥(おい)の写真を見せて、学生に紹介しようとしたことがあります。
ところが、「甥(おい)」に当たるインドネシア語が思い出せず……。
「妹の男の子ども」とインドネシア語で説明して乗り切りました。
意味が似ていることばを使うのも「言い換え」
また、発音がニガテな英語のことばがある場合、似た意味のことばを使うのも「言い換え」です。
たとえば、「たぶん」という意味の「probably」。
「probably」には区別の難しい「 R 」と「 L 」の発音が含まれてれているので、発音するときに緊張してしまいます……。
この場合、「probably」の代わりに「maybe」を使うのも「言い換え」のひとつです。
ただし、「probably」と「maybe」は、厳密には違います。
話し手がどれぐらい確信しているか(自信があるか)がポイントで、違いは次の通り。
確信度の違い
- probably: 80%ぐらい確信
- maybe: 50%ぐらい確信
こういう違いに気をつけながら、うまく「言い換え」を使いましょう。
「言い換え」は手持ちのカードをいかに効率よく使うか、まさにストラテジー(戦略)ですね!
意識的な転移
コミュニケーション・ストラテジーの3つ目は、「意識的な転移」です。
と言っても、これ、ピンと来ませんよね……。
『日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド 第2版』という本には、「意識的な転移」の説明として、次のとおり書いてあります。
直訳したり母語を使用したりする。
ヒューマンアカデミー著『日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド 第2版』(2011年 翔泳社)
シンプルな説明なんですが、シンプルすぎるので補足しますね。
直訳する
まず、「直訳する」ということについて。
たとえば、友人からこんな話を聞きました。
英語で話していたとき、「無精ひげ」と言いたかったのですが、そんな単語は知りませんでした。
「無精ひげ」は英語で「stubble」だそうですが、わたしも調べて初めて知りました……。
そこで、「無精→怠惰だから『lazy』」を使って「lazy beard(めんどくさがりの顎ひげ)」と直訳。
すると、コミュニケーションが成立しただけでなく、「詩的ですばらしい! 」とほめてもらえたそうです。
手持ちの英単語で何とかコミュニケーションを取れるようになると、英語を話すハードルが低くなりますね。
母語を使う
それから「母語」を言い換えとして使う例です。
たとえば、「屋上」を英語でどう言えばわからない場合、ひとまず「okujo」と言ってしまうんです。
次のような感じで。
母語を使う例
I saw her on okujo.
(屋上で彼女を見かけたよ)
「屋上」という日本語を相手が知っていれば、これでコミュニケーションが成り立ちます。
相手が知らなかったら、どうしようもないんじゃ……?
……と思ったかもしれませんね。
相手が知らない場合は、次のように、他のストラテジー(言い換えなど)を使うことでコミュニケーションを続けられるでしょう。
I saw her on okujo.
(屋上で彼女を見かけたよ)
What is okujo ?
(「okujo」って何?)
It's a top of the building.
(ビルのいちばん上)
Oh, you mean a rooftop.
(ああ「rooftop=屋上」のことだね)
コミュニケーションストラテジーは、2つ以上使っても当然OKです。使えるものは何でも使いましょう!
援助要求
コミュニケーション・ストラテジーの4つ目は「援助要求」です。
これは「助けを求める」ということで、想像しやすいのではないでしょうか。
たとえば次のような例があります。
「援助要求」と英語の表現の例
日本語の会話でも、ふつうにやっていることですね。
ジェスチャー
コミュニケーション・ストラテジー、最後は「ジェスチャー」です。
冒頭でも書きましたが、身振り手振りでコミュニケーションを取るというストラテジーですね。
たとえば、静かにしてほしいときに、人差し指を口の前に立てるのもジェスチャーです。
ちなみにこのジェスチャー、英語でも同じなんですよ。詳しくは シー(静かに!)は英語でなんて言う?をご覧ください。
とはいえ、同じジェスチャーも、文化圏によっては違う意味になることがあるので注意しましょう。
こちらのインスタ投稿もご参考に。
ちなみにこちらの書籍もおすすめですよ。
国・性別によるジェスチャーの違い、海外ではOKなジェスチャー、日本独特のジェスチャーなどが満載です。
コミュニケーション・ストラテジーはずるい?
ここまで読んできて、こんなことを思ったかもしれませんね。
なんかずるい感じがする……。ちゃんと勉強したほうがいいんじゃね?
そんなことはありません。コミュニケーション・ストラテジーは、決して「ずるいやり口」ではありません。
むしろ、「文法能力」などと並んで、「コミュニケーション能力」の1つに数えられているんですよ。
「コミュニケーション能力」について詳しくは、コミュニケーション能力とは?をお読みください。
個人的にも、次のような理由でコミュニケーション・ストラテジーを使うのは理にかなっていると思っています。
順に見ていきましょう。
外国語学習を補(おぎな)える
まず、外国語学習を補えること。たとえば、さきほど紹介した「言い換え」について考えてみましょう。
無数にある外国語のことばをすべて覚えるのは、現実的ではありません。
母語である日本語のことばだって、ぜんぶ知っているわけではありませんからね。
でも、知らないことばも、自分が知っていることばで言い換えられれば、それでコミュニケーションが成り立ちます。
そうすることで、ことばを1つ覚える時間を節約できますよね。
ことば1つなら節約できる時間はたかが知れていますが、これが何十、何百となるとけっこうな時間になるはずです。
母語でも使っている
それから、コミュニケーション・ストラテジーには、母語でふつうに使っているものもあります。
日本語の会話でも、次のようなことをしていませんか?
コミュニケーション・ストラテジー例
母語でも使っているストラテジー、外国語でも使わない手はありませんよね。
まとめ
この記事では、「コミュニケーション・ストラテジー」について解説しました。
まとめると、次のとおりです。
まとめ
- 「コミュニケーション・ストラテジー」は、コミュニケーションがスムーズにいかないときに、コミュニケーションを進める方法である
- 「コミュニケーション・ストラテジー」には、回避・言い換え・意識的な転移・援助要求・ジェスチャーなどがある
- 「コミュニケーション・ストラテジー」を使うのはずるいことではなく、理にかなっている
コミュニケーション・ストラテジーで、コミュニケーションをうまく進めましょう。