みなさんは、「妥協」という言葉にどんなイメージを持っていますか?
プラスのイメージですか? それともマイナスのイメージですか?
今回は、日本語の「妥協」のイメージを、英語で「妥協」を意味する「compromise」の使い方と比べながら、言葉のイメージの違いについて書こうと思います。
目次
そもそも「妥協」ってどんな意味?
私の持つ国語辞典で「妥協」を調べてみると次のとおりです。
「妥協」の意味
- (対立する意見や異なる主張を)互いに譲り合ってまとめること
- 適当な程度でよしとすること
コミュニケーションをしていくうえでは、なくてはならない「ツール(手段)」と言えるでしょう。
「妥協」という言葉を使われるとどんな気持ちになる?
さて、この「妥協」という言葉ですが、私は少しマイナスなイメージを持っています。
前項で書いた国語辞典の解釈は、その通りだと思います。特にマイナスの言葉は使われていません。
でも、どうしても私にはマイナスのイメージがあります。なんだか、「何かを失う」イメージの方が強くありませんか?
結婚指輪を「妥協された」話
冒頭でも書きましたが、英語で「妥協」の意味を持つ言葉は「compromise」といいます。
私が初めて「compromise」という言葉に出合ったのは、夫(アメリカ人)と結婚指輪について話していたときでした。
夫は「材質はゴールドがいい」と言い、私は「色はシルバーがいい」と言いました。
夫は、材質はゴールド、見かけも金色のゴールドをイメージしていました。
私は、高価なのは承知の上で、材質はプラチナがいいなと思っていました。色はシルバーがよかったので。
私は貴金属にほぼ無知なので、シルバーよりも上の銀色の材質といえば、プラチナしか知らなかったのです。
すると、夫が「compromise」という言葉を使って、「じゃあ、妥協して材質はホワイトゴールドにしよう」と言ったのです。
私は、「妥協」という言葉を使われたことに少し悲しくなりました。
英語の「compromise」にはマイナスのイメージはない?
ホワイトゴールドが嫌だったわけではありません。ゴールドということで、十分すぎるほどの材質です。
潜在的に、一生に一度の結婚指輪が、プラチナになることを勝手に期待していたのかもしれませんが、どうしても「compromise(妥協)」という言葉に引っかかってしまいました。
国語辞典の解釈通り、ホワイトゴールドにすることで「互いに譲り合っている」し、主張が違うときには譲り合わないと、結婚生活は成り立たないのはわかっています。
でも、「妥協」って……(泣)。
沈んでしまった夫に「『compromise』にマイナスのイメージはないんだよ」と言われ、しぶしぶ納得したのです。
でも、義母に「(指輪の希望が違ったから)妥協してホワイトゴールドにしたんだ!!」とうれしそうに話す夫に、違和感を持っていました。
心の中で「うれしそうに『妥協』はないでしょ!!」と思いながら。
それ以来、「compromise」という言葉は、「日本語の『妥協』とはちょっと違う語感だな」と受け止めていました。
二度目の「compromise」との出合い
次に「compromise」に出合ったのは、つい最近でした。
夫の友人が出張で、私たちの住む町から車で10時間くらいのところにやってくるというのです。
「車で10時間」というと、日本では「すごく遠い」と思うかもしれませんが、広いアメリカでは、そう遠くない感覚です。
特に、その友人は現在日本にいて、ここ数年会っていないこともあり、夫とその友人にとっては「近い」ともいえる距離です。
そこで、この週末、ふたりは中間地点くらいの町で会うことになっているのです。
その話を夫が義父にしていたとき、義父が「Oh, you compromised!」と。
それを聞いたときも「ん?」と違和感がありました。「妥協して、中間地点で会うことにしたんだ」と日本語で言いますか?
日本語だと、「妥協して」と言わず、「間を取って」と言ったり、もしくは何も言わず、ただ「中間地点で会うことにしたんだ」と言うような気がします。
もちろん、文の中に「互いに譲り合って」という、「妥協して」の意味合いは含みますが、わざわざ言葉では言わないような気がするのですが……。
「妥協して」という言葉を使うと、マイナスのイメージが発生してしまうからかなと、私は勝手に解釈しています。
そこで、結婚指輪のことも、それが原因で「なんだかなぁ……」と悲しくなってしまったのだと気づきました。
普通に「僕は材質はゴールドにしたいし、、タカコは銀色がいいなら、ホワイトゴールドはどう?」と言ってもらえれば、そんなに違和感を感じなかったのかも、と。
英語の「compromise」ってどんな言葉?
OXFORD社の英語学習者向けの英英辞典「wordpower」には、
an agreement that is reached when each person gets part, but not all, of what he/she wanted
と書かれています。
「望んだものすべてではないが、お互いがその一部を得る」とも書いています。
夫は、「agreement(合意・賛成)」と「disagreement(意見などが一致しないこと)」の間に「compromise」があると言います。
お互い合意しなければ、話し合って譲り合わないといけないし、それがうまくいかないとお互いの希望は折り合わない。
そうなると、何もしないか、どちらかが嫌(不利)な状況を受け入れる(accept)ことになる、と。
どの言語でも、コミュニケーションにおいて、譲り合うこと(妥協すること)は必要です(たったひとりで生きていくなら、話は別ですが……)。
私は、「妥協」というと……
例
to lose something(何かを失うこと)
……というイメージを持っていたのですが、夫が持つ「compromise」はまったく逆でした。
例
to get something(何かを得ること)
……なのだそうです。
両方とも「譲り合って」という行動を経ての結果ですが、完全に真逆ですね。
夫の考え方では、焦点をおいているのは、「得る」ということですね。
両者とも、完全ではなくても何かを得るということで、「win-win(自分も相手も勝つ)」。気持ちは「pretty happy(まあまあいい感じ)」なのだそうですよ。
私は、「お互い譲って、ほしいものの一部しか手に入らない」ということから、「失う」ことに焦点をおいて、「lose-lose」に近いと思っていました。
気持ちは「happy」なはずありませんね。
日本語での「妥協」の使い方
では、日本語では「妥協」という言葉、どうしてマイナスのイメージがあるのか考えてみました。
もう一度、日本語の「妥協」の意味を辞書から持ってきますね。
「妥協」の意味
- (対立する意見や異なる主張を)互いに譲り合ってまとめること
- 適当な程度でよしとすること
たとえば、こんな事例はどうでしょう?
例
ある人が1万円で売りたい壺を持っています。ひとりだけ5,000円なら買ってもいいという人がいます。ふたりは話し合って、7,500円で売買することにしました。
お互い希望額ではないものの、「妥協」して、交渉は成立です。これは、「互いに譲り合う」という、前述した国語辞典の解釈の「用法1」にあたります。
夫に聞くと、これは英語だと「compromise」を使って表現できるそうです。
日本語の「妥協」は相手がいなくても使える
次に、これはどうでしょう?
例
結婚相手の条件に、高学歴、高収入、見た目良し、性格良し、長男以外、ギャンブルをしない……などを挙げる女性がいました。でも、なかなかその条件に合う男性が現れないので、条件の基準を下げました。
これも日本語では「妥協」と言えると思います。
前述した国語辞典の解釈でいうと、「用法2: 適当な程度でよしとすること」という用法にあたります。
そこで気づいたのですが、この場合、自分ひとりでも「妥協できる」ということです。
つまり日本語では、「自分の中で譲ること」を「妥協」というんですね。日本語の「妥協」は相手がいてもいなくても使えます。
国語辞典の用法は、先に出ている方が一般的だと思うのですが、「用法2」が「用法1」の根底にあるということです。
「用法1: 互いに譲り合ってまとめること」のように、相手がいれば、「お互いが自分の中で譲る」ことで、「互いに譲り合う」という解釈になるのではないでしょうか?
例
自分の中で譲ること = 何かをあきらめる
……というイメージですね。
結婚相手の条件を下げる事例をイメージすればわかりやすいと思います。
だからこそ、相手がいる・いないにかかわらず、どうしても「何かを失う」というイメージがついて回るのでしょう。
なので、2人でお互い譲り合って、円満に交渉が成立しても、「妥協」という言葉を使ってしまうと、マイナスに聞こえるんですね。
ちなみに、英語だと、自分の中で条件を下げるような事例は、「give up」などで表現できそうです。
「compromise」は「相手」が必要
一方、英語の「compromise」は、譲り合う「相手」が必要です。
逆に言うと、相手がいないと「compromise」という言葉は使えないんですね。
これは、「compromise」の語源からもわかります。
頭の「com」は、ラテン語の「cum」が語源で、「一緒に」とか「ともに」という意味を含んでいるんです。
ちなみに、「communication(コミュニケーション)」も、同じ語源のラテン語が英語に入ってきた言葉です。
また、「promise」は、「約束」や「決め事」のような意味ですね。
これらのことから、「compromise」は、「相手と一緒に決め事をする」ということで、「お互い譲り合う」という意味になるんです。
2016.11.20追記
英語でも、日本語のように「自分の基準を下げる」という使い方もするようです。
OXFORD社のAdvanced Learner's Dictionaryの動詞での用法「2」に「to do sth that is against your principles or does not reach standards that you have set」とありました。
夫にも聞いたところ、確かにそのように使うそうですが、基準を下げても、「何かは手に入る」ということで、イメージとしてはやはりプラスのようです。
同じように使えても、基準を下げることのマイナスイメージが響く日本語とは、少し語感が違いますね。
まとめ
私のように、「妥協」という言葉にマイナスなイメージを持っていた方も多いのではないでしょうか?
それは、日本語では、相手がいてもいなくても使えるという、用法の違いがあったからだったんですね。
私はわりと結婚が遅かったので、「結婚生活なんて、『妥協』の連続よ~」という声も周りからよく聞いていたし、私自身も確かにそうだと思います。
でも、この「妥協」という言葉も、英語の「compromise」の考え方に変えると、もっとポジティブになれそうです。
お互い譲り合って、お互いハッピー!!
……そうありたいものです(笑)。