破擦音ってなに? 発音記号で「ts」と2文字で書く理由は?

ヨス

執筆者

アメリカ留学で言語に興味を持ち、日本語教師の資格をとる。メディアなど掲載多数。著書は2冊。一般的には学ばない「日本語の音声」を学ぶことで英語の発音を習得し、独自の英語の発音習得メソッドを持つ。→ ヨスについてはこちら

今回は「破擦音」ってなに?という話についてです。

日本語の「つ」とか「ち」が破擦音なのですがどんな音なのか詳しく紐解いてみますね!

破擦音ってなに?

では「破擦(はさつ)音」という子音はどんな音声なのでしょうか?

音声データで紹介しますね。次の順に発音していっています。

破擦音とは?

  1. 破裂(はれつ)音 [ t ] [ t ]
  2. 摩擦(まさつ)音 [ s ] [ s ]
  3. 破擦(はさつ)音 [ t͡s ] [ t͡s ]

最後に言ったのが破擦音です。

破擦音というのは簡単に言うと「破裂音」と「摩擦音」とを同時に出す音声のことです。

破擦音とは?
「破裂音」と「摩擦音」を同時に出す音声

ヨス

漢字を見ても
()(さつ)破擦(はさつ)
ですよね!

ややこしいので3つの発音について1つ1つ解説します。

破裂音について

まずは「破裂音」について。

破裂音というのは、主に舌先を使って破裂させるように発音する子音のこと。

たとえば「た」という発音をするときの [ t ] の音がそうで、次の図を見てください。

「 t 」の発音
[ t ] の発音

上の図で、舌を上の前歯の根本あたりに付けて、勢いよく離して作る音です。

まるで破裂するかのように勢いよく出す音なので「破裂音」と呼びます。

くわしくは「破裂音について」をご覧ください。

破裂音について

摩擦音について

お次は「摩擦(まさつ)音」です。

「 s 」の発音
[ s ] の発音

これも、先ほどの [ t ] と同じく、舌先を歯の根本あたりにつけて……いるように見えますが、よく見ると、ほんの少しだけ舌と上あごの間にはスキマがあるんです!

そのスキマから「すきま風」を通すように出す音が [ s ] です。「スーッ」って感じの音。

空気を摩擦させて出す音だから「摩擦音」と呼ぶんですね。

破擦音について

そして今回の主役「破擦(はさつ)音」についてです。

「 ts 」の発音
[ ts ] の発音

厳密には「破裂音」+「摩擦音」ではない

文字で見るとこちらのようになり、「破裂音」と「摩擦音」が合体しているように見えます。

裂音 + 摩音 = 破擦

先ほど、「破裂音」と「摩擦音」が同時に起こるというふうに説明しましたが、厳密には違います。

たとえば、破擦音である [ t͡s ](「つ」の子音)」はこちらのように作られます。

破擦音 [ t͡s ] の作り方

  1. 「破裂音」と同じように舌を上前歯の根本にくっつける
  2. くっついているところを、ゆっくりと離す
  3. 離した瞬間に「摩擦音」が出る

厳密には「破裂」は起こっていないということですね。

ヨス

でも、「破裂音」+「摩擦音」と覚えていて問題ないですよ!

【参考】破裂部分が摩擦であるものが「破擦音」

参考までに、「破擦音」は言語学者である川原繁人さんの著書『ビジュアル音声学』にはこちらのように説明されています。

「破裂音」は「破裂」を含んでこその「破裂音」であり、「破擦音」には「摩擦」は含まれているものの「破裂」は含まれていない。よって、「破擦音は破裂音の破裂部分が摩擦であるもの」とみなす方が正しい。

ビジュアル音声学より引用しました。

つまり「破擦音」を発音するとき、厳密な「破裂」は起こらず、代わりに摩擦が起こっているのです。

この書籍は言語学の基本を学ぶときにおすすめですよ。



破擦音の表記について

続いて、「破擦音」の発音記号について紹介しましょう。

「 t͡s 」の発音
[ t͡s ] の発音

破裂+摩擦だから [ t͡s ]

日本語の破擦音「つ」をアルファベットで書くときに「tsu」と書きますよね?

実は正式な「発音記号(国際音声記号)」でも、「つ」の子音は [ t͡s ] と書きます。

ひより

なんで2文字になるの?? 1文字にしろよなっ!!

……と思っていた人もいるかもしれませんが、破擦音の原理を知ると納得ではないでしょうか?

破裂音 [ t ] + 摩擦音 [ s ] だから [ t͡s ]

つまりこういうことです。

破裂音 [ t ]+ 摩擦音 [ s ]
破擦音 [ t͡s ]

せっかくなので正式名称を。

正式な名称
[ t ] 無声歯茎破裂
[ s ] 無声歯茎摩擦
[ t͡s ] 無声歯茎破擦
「 ts 」の発音
[ ts ] の発音

濁音になると「 d͡z 」

せっかくなので、[ ts ] が濁音になると発音記号はどうなるのかを見てみます。

「 dz 」の発音
[ dz ] の発音

そのまんまです! 無声歯茎破裂音 [ t ] の濁音 [ d ] と無声歯茎摩擦音 [ s ] の濁音 [ d ]。

その2つが合体した「 d͡z 」になります。

濁音になった場合の正式名称
[ d ] 有声歯茎破裂
[ z ] 有声歯茎摩擦
[ d͡z ] 有声歯茎破擦


破擦音 [ tʃ ] の場合

英語には、破擦音がもう一つあります。

それが [ t͡ʃ ] です。

「 tʃ 」の発音
[ t͡ʃ ]の発音

英語だと [ ch ] の発音がそうですね。たとえば「church」の発音では [ t͡ʃə́ːrt͡ʃ ] のように2回出てきます。

わたしが「church」と発音しているのをお聞きください。

「ch...ch...church」というのを2回言っていますが、[ t͡ʃ ] はこんな発音ですね。

前歯の根本より少し後ろに舌を持っていって発音します。

この場所は後部歯茎(こうぶしけい)と呼ばれるため、 [ t͡ʃ ] の発音は「無声後部歯茎破擦音」と呼びます。

後部歯茎
後部歯茎

この [ t͡ʃ ] も、表記の通り破裂音 [ t ] と摩擦音 [ ʃ ] を同時に発音する音ですね。

正式名称
[ t ] 後部歯茎破裂音
[ ʃ ] 後部歯茎摩擦音
[ t͡ʃ ] 後部歯茎破擦音

あれ? [ t ] は歯茎音じゃ?

カンのいい人はお気づきかもしれませんが、先ほど「歯茎破裂音」としてお伝えした [ t ] が後部歯茎音としても出てきます。

実は摩擦音以外は……

  • 歯茎(上前歯の根本付近)
  • 後部歯茎(歯茎の少し後ろ)

この2つの場所でも音がそこまで変わらないため、同じ音声記号で書きます。

ヨス

厳密には音声が違うはずなので、 [ t ] の下に、「後ろ寄り」を意味する「 _ 」を入れます。

摩擦音 [ ʃ ] の発音

摩擦音 [ ʃ ] の発音ですが、日本語の「し」の子音よりも少し舌の位置を前に持っていきます。

「 ʃ 」の発音
[ ʃ ] の発音

[ t ] と [ ʃ ] を同時に出すのが [ t͡ʃ ]

というわけで、破裂音 [ t ] と摩擦音 [ ʃ ] を同時に出すのが破擦音 [ t͡ʃ ] です。

「 tʃ 」の発音
[ t͡ʃ ] の発音

[ t͡ʃ ] が濁音になると [ d͡ʒ ]

ついでに [ t͡ʃ ] が濁音になった音について。

これは [ d͡ʒ ] という発音です。

「 dʒ 」の発音
[ d͡ʒ ] の発音

「bridge」の「dge」の音ですね。



まとめ

いかがでしたか?

日常生活で「破擦音ってなに?」と会話に出ることは極めてまれですが、英語の発音を学ぶときに「どういうふうに発音するのか」を知ることは重要です。

ぜひ「破擦音」というものを知って、マスターしてくださいね!

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アメリカ留学で言語に興味を持ち日本語教師に。その後、自分が「音声学」に猛烈に惹かれることに気づく。一般的には学ばない「日本語の音声」を学ぶことで英語の発音を習得し、独自の英語の発音習得メソッドを持つ。>>ヨスについて詳しくはこちら
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