冠詞といえば、「 a 」と「the」です。
でも、「 a 」はときどき「 an 」に変化する……という現象がありますよね。
このルールってご存じでしょうか? 今回は、どういうときに「 a 」が「an」になるのかをまとめました。
「a」と「an」の使い分けルール
まず最初に説明しておくと、「a」と「an」は「1つの」という、全く同じ意味の言葉です。
品詞で言うと、「冠詞」に分類され、冠詞の「 a(不定冠詞)」が状況によって「an」に変化するだけです。
「 a 」と「an」という2つの単語を使い分ける必要がありますが、2つの使い分けのルールは何でしょうか?
母音の前だと「a」→「an」に
不定冠詞「 a 」が「an」に変身するルールは、実は一言で完結します。
ずばり、「母音」の前です。
後ろにくっ付く名詞が「母音 =a, i, u, e, o(アイウエオ)」で始まる単語のときは「a」ではなく、「an」を使います。
たぶん、例を見たら一発で分かると思います。
I have a an apple.
(僕はりんごを [ 1つ ] 持っている)
「apple(りんご)」という単語は「a(ア)」の音で発音して始まりますよね?
通常なら「私は〇〇を持っている」と言いたい場合(「pen」など)のときは、前に「 a 」が付きますが、「apple(りんご)」のときは「an」が付くということです。
「a」「an」の例
- I have a pen
- I have an apple.
では、母音から始まる単語でほかの例も見てみましょう!
「an」が付く例
- an apple(りんご)
- an idea(考え)
- an uncle(おじ)
- an egg(卵)
- an owl(フクロウ)
ちなみに「母音」に対して「 p 」や「 k 」などを「子音」と呼びます。
重要なのは「発音」
さて、ここまで見ると「なんだ簡単だな!」と思われると思いますが、注意が必要です。
実は、この「母音」というのは文字の話ではなく、「発音」の話だということです。
こちらの2つの例を見てください。
「an」が付く例
- a useful way(便利な方法)
- an hour(1時間)
ええー!? おかしくないっ!?
表記は「母音」でも音声は「子音」
たとえば、1の「a useful way(便利な方法)」の場合、「useful way(便利な方法)」の「useful」が表記上は「 u(母音)」で始まっています。
でも、これはあくまで表記だけの話で、発音は「ユ(yu)」のような音から始まるんですよ。
発音記号でも [ júːsfl ] になっていて、日本語の「ヤ行」子音である [ j ] から始まっていますね。
表記は「子音」でも音声は「母音」
そして、2の「an hour(1時間)」は逆です。表記では「 h 」から始まっているので、「a hour」になりそうです。
ところが、「hour」の場合、「 h 」は発音しないため、「 a 」の発音から始まります(「our [ 私達の ]」と同じ発音)。
そのため、母音の発音から始まるため「hour」の前の「 a 」は「an」になるんですね。
「 a 」が「an」になる理由
では、なぜ母音の前に「 a 」が来るとわざわざ「an」にする必要があるのでしょうか?
なぜ「 a 」が「an」になるの?
「 a 」が母音の前に来るときだけ「an」になるという話ですが、実はこれは音声の問題です。
母音が重なると発音しにくい
単純に母音が重なると読みにくいですよね(笑)。
わかりやすくするために、カタカナで書いてみます。
「a」に置き換えてみた
- a apple(りんご)アアポゥ
- a idea(考え)アアイディア
- a uncle(おじ)アアンコゥ
- a egg(卵)アエグ
- a owl(フクロウ)アアオゥ
これは読みにくすぎやろっ!!
実際に英語圏の人が話すときは「えっと、『apple』は母音だから……」みたいに頭で考えているわけではありません。
母音から始まる単語を言おうとしたときに、「発音しやすくする」ために勝手に舌が上前歯の根本にいく(「 n 」の発音をする)ように身体で覚えています。
日本語の鼻濁音の「が」と同じような感じですね(ぶっちゃけですが「an」をマスターするよりも、日本語の「が」の使い分けの方がハードル高いです)。
言語では「母音が連なること」は嫌われる
日本語でも「春雨」を「はるあめ」ではなく「春雨」と読みますが、これも母音が重なるのを避けるために起こった音声変化です。
音韻添加(子音介入)の例
haruameharusame
ちなみに「音韻添加(子音介入)」と呼びますが、[ s ] という子音を [ u ] と [ a ] の発音の間に介入させることで読みやすくしています。
基本的にどの言語においても「母音」が続くことを避けたがる傾向があるんですね!
近代の日本語では「青い(aoi)」みたいに、母音が重なる単語はガンガンありますけどね(笑)。
【参考】英語の歴史では「an」が基本だった
「 a 」が基本で、母音の前だけ「an」になるという解釈で紹介しましたが、英語の本当の歴史では逆だと言われています。
つまり、基本は「an」で、後ろに母音が来ないときだけ「 a 」になった……というお話をしますね。
堀田隆一 氏のこちらの書籍を参考にさせていただきました。
「one」が「an」に変化した
冠詞の「 a 」は元々は存在せず、「an」だけだったという話ですが、そもそも「an」の語源は何でしょうか?
じつは、「ひとつの」を意味する「one」が弱く発音されるようになったものが「an」です。
不定冠詞 a(n) は,歴史的には数詞 one の弱形にすぎず,もともと語尾に n 音を持っていたからである.
英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史より引用しました。
「one [ wʌ́n ]」と「an [ ən ]」は発音が似ていますよね。
つまり、当時の英語ではこういう変化が起こったということです。
「one」が「an」に
- one king an king
- one dog an dog
- one apple an apple
子音の前にくる「an」が「 a 」の発音に
ところが、「an apple」のように母音の前に来るときの「an」は発音しやすいのですが、子音の前に「an」が来ると子音が連続して発音しにくい。
そこで子音の前に来る「an」の「 n 」の発音が脱落したと考えられます。
すなわち,次に来る語が子音で始まるときには,子音連続を避けるかのように,n の脱落した a がしばしば用いられるようになった.
英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史より引用しました。
こちらのような変化を起こしたということですね。
子音前の「an → a」に
- an king a king
- an dog a dog
- an apple そのまま
英語の歴史としてはこんな事情があるわけです。
でも、「an」が基本で「 a 」が例外……のように教えると例外が多くなりすぎ、覚えにくいです。
そのため、英語教育の中では「 a 」が基本で「an」が例外……のように教えることになっています。
そのほうが合理的ですもんね!
「an」を読むときのコツ
では、「 a 」を「an」にすることで本当に読みやすくなるのでしょうか?
ここ、超大切なのですが、もし日本語の読み方で「アン・アップル」と言っているのでは読みやすくなりません!
「n」と「ン」の発音は全然違う!
まず、読む時に注意したいのは「an」は「アン」ではないということ。
下の記事を見てほしいのですが、「 n = ん」ではないのです!
正しい [ n ] の発音についてはこちらをご覧ください。
リンキングさせて発音する
そして、リンキングさせて発音することが大切!!
リンキングというのは、単語と単語のスペースを取っ払って、繋げて読むことです。
こちらをご覧ください。
「an」+母音の発音
- an apple(りんご)アナポゥ
- an idea(考え)アナイディア
- an uncle(おじ)アナンコゥ
- an egg(卵)アネグ
- an owl(フクロウ)アノオゥ
カタカナで書いていますが「アアッポゥ」に比べると「アナッポゥ」はめちゃくちゃ読みやすいのは伝わったのではないでしょうか?
ちなみに、[ n ] の発音は音声学では鼻音と呼ばれる音で、非常に発音しやすい音です。
「an」の「a」はあいまい母音
さらに「an」の「 a 」ですが、ハッキリと発音しないのもコツです。
専門的には「シュワー(schwa)」と呼ばれる母音で、国際音声記号では
[ ə ] と書きます。
辞書でもよく見かける「 e 」が逆になった記号ですね!!
とにかく日本語の「ア」のようにハッキリ言わず「ァ」みたいなノリで「ア」とも「オ」とも分からないような「適当な発音」で言ってください。
まとめ
さて、今回は冠詞の「 a 」が「an」になることについてまとめました。
話すときは「an」を「アン」と読まないことが超重要ですので、ぜひ発音をマスターしてくださいね。
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