発音記号 [ t͡ʃ ] について

[ t͡ʃ ] の発音について
ヨス

執筆者

アメリカ留学で言語に興味を持ち、日本語教師の資格をとる。メディアなど掲載多数。著書は2冊。一般的には学ばない「日本語の音声」を学ぶことで英語の発音を習得し、独自の英語の発音習得メソッドを持つ。→ ヨスについてはこちら

今回は発音記号である[ t͡ʃ ]の発音(無声後部歯茎破擦音)についてです。

日本語の「ち」の発音に似ていますが、同じなのでしょうか?

この記事では[ t͡ʃ ]の発音の仕方[ t͡ʃ ]の発音のコツなどをくわしく解説します。

[ t͡ʃ ]はどんな音声?

まずは、発音記号の[ t͡ʃ ]の音声を聞いてみましょう。

次のような発音になります。

「チュ」という音に聞こえますよね。

[ t͡ʃ ]の発音の仕方

では、[ t͡ʃ ]を発音するときの口の中の「構え」はどうなっているのでしょうか?

[ t͡ʃ ]は、こちらの図のような構えで発音されます。

[ ch ]の発音
[ t͡ʃ ]の発音

[ t͡ʃ ]の発音をする手順をまとめると次のとおりです。

[ t͡ʃ ]の発音をする手順

  1. 舌の真ん中より前のあたりと上前歯の「歯茎」の少し後ろをくっつける
  2. 口の中に空気を溜め、舌と上あごの接触面を破裂させる
  3. そのままスキマ音を作る

日本語の「ち」の発音と似ていますが、違う発音です。

[ t͡ʃ ] は、専門的には「無声後部歯茎破擦音(むせいこうぶしけいはさつおん)」という発音です。

のどの震え無声
発音される場所後部歯茎音
発音する方法破擦音
発音のコツ
  • 口を縦長にして「チュ」と言う
  • スキマを作る範囲は日本語の「チュ」のほうが広い
  • 歯を閉じて発音する
  • 息を強く吐く
注意点
  • 日本語の「チュ」と混同しない
  • 母音をつけて「チュ」と言わない
音声[ t͡ʃ ]についてのまとめ

さらに詳しく紹介します。

【のどの震え】[ t͡ʃ ]の発音は「無声音」

[ t͡ʃ ]の発音は無声音であるため、のどの震えがありません。

のどの震え(声帯振動)」というのは、日本語で言うと「濁点があるかないか?」の違いだと考えると理解しやすいでしょう。

たとえば、日本語の「た」は「のどの震え」のない無声音です。

日本語の有声音の例「だ」
日本語の有声音の例「だ」

「た」に濁点が付いて「」になると「のどの震え」のある有声音になります(厳密には「た」と「だ」の子音)。

[ t͡ʃ ]を濁らせた音が[ d͡ʒ ]

実は[ t͡ʃ ]の発音を濁らせた音が、[ d͡ʒ ]の発音になります。

[ t͡ʃ ]と[ d͡ʒ ]の発音は、発音が作られる構えは完全に同じです。

[ d͡ʒ ]の発音
[ d͡ʒ ]の発音

つまり、[ t͡ʃ ]に濁点をつけた[ t͡ʃ ゛]の発音が[ d͡ʒ ]ということです。

唯一の違いが、のどの震えがあるかどうか、つまり声を出すかどうかになりますよ(参考: 英語の清音・濁音)。

【発音される場所】[ t͡ʃ ]の発音は「前舌と後部歯茎」で作られる

[ t͡ʃ ]を発音するときは、「後部歯茎(こうぶしけい)」と呼ばれる場所で作られます。

そのため、「後部歯茎音(こうぶしけいおん)」と呼ばれます。

後部歯茎音
後部歯茎音

では具体的にどの場所を使うのか、「舌」と「上あご」に分けて紹介しましょう。

「舌」のどこを使う?

[ t͡ʃ ]の発音をするときは舌の「真ん中」あたり(前舌)を使います。

前舌
前舌

「前舌」という名称ですが、上の図のように舌の真ん中のほうを使いますよ。

「上あご」のどこを使う?

その前舌を「歯茎(しけい)歯茎(はぐき)の根本あたり)」の少し後ろにくっつけます。

後部歯茎
後部歯茎

口の中の名称についてはこちらをどうぞ。

【発音する方法】[ t͡ʃ ]の発音は破擦音

[ t͡ʃ ]の発音は、破裂音と摩擦音を同時に発音する「破擦音(はさつおん)」と呼ばれる音です。

[ ch ]の発音
[ t͡ʃ ]の発音

まずは、舌と上あごを完全にくっつけ、口の中から外に出る空気を止めます

空気が出るのを止める
空気が出るのを止める

そして空気がたまり(気圧が上がり)、舌と上あごの接触点が破裂するような勢いで離れます

離れた瞬間、その小さなスキマから摩擦させるようなスキマ音を作るのです。

こちらが実際の[ t͡ʃ ]の発音ですよ。

日本語の「チ」の発音に非常に似ていますね。

【ポイント】[ t͡ʃ ]を発音するときのコツ

では[ t͡ʃ ]を発音するときのコツを紹介します。

口を縦長にして「チュ」と言う

[ t͡ʃ ]の発音は、日本語の「チュ」の音に似ています。

もっとも際立つ違いは、口を縦長にして開くか横長に開くかです。

日本語の「チュ」の子音である[ t͡ɕ ]を発音するときの口の構えを見てください。

日本語の「ち」の子音[ t͡ɕ ]を発音するときの口
日本語の「ち」の子音[ t͡ɕ ]を発音するときの口

上の図のように、口を横に長く開いていますよね?

今度は英語の[ t͡ʃ ]を発音するときの口の構えを見てみましょう。

[ t͡ʃ ]の発音を前からみたところ
[ t͡ʃ ]の発音を前からみたところ

日本語の「チュ」と言ったよりも唇が丸まっていますよね。

このように、口の形を変えるだけで[ t͡ʃ ]の発音はできます。

スキマを作る範囲は日本語の「チュ」のほうが広い

今度は口の中で「音声を作る範囲」に注目してみましょう。

日本語の「チュ」の子音である[ t͡ɕ ]を発音するときは、舌を上あごの「歯茎」+「硬口蓋」までの広範囲で作られているのです。

次の図をご覧ください。

[ t͡ɕ ]の発音
[ t͡ɕ ]の発音

上の図のようにピンクに塗っている部分が広いですよね?

それに比べ、 英語の[ t͡ʃ ]を発音するときに使われるのは「後部歯茎」だけです。

[ t͡ʃ ]の発音
[ t͡ʃ ]の発音

……と、このように口の中の説明をしてはいますが、「舌の位置は……」と特に意識しなくても、口を縦に開くことを意識して「チュ」と言えば[ t͡ʃ ]になりますよ!

歯を閉じて発音する

[ t͡ʃ ]を発音するときは、歯を閉じて発音します。次の図をご覧ください。

[ t͡ʃ ]の発音を前からみたところ
[ t͡ʃ ]の発音を前からみたところ

こんな感じで[ t͡ʃ ]を発音しているときは、歯が閉じますよ(これは意識しなくても閉じますが)。

歯を閉じることで、窓のスキマ風の音のようなシャープな音になります。

「舌」と「歯茎」とのスキマで作られたスキマ音に、さらに歯を閉じたことで作られる「歯」と「歯」の間のスキマ音をプラスした音とも言えます。

息を強く吐く

あと、[ t͡ʃ ]を発音するときに息を強く吐くと英語らしくなります。

大げさなぐらい「チュッ」いう音を出すほうがきれいです。

日本語の「ちゃ行」の子音を、あえて英語の[ t͡ʃ ]に置き換えて発音した音声があるので聞いてみてください。

日本語で話しているときに[ t͡ʃ ]の発音を使っても通じますが、少し「チュッ!」という音が強く聞こえますよね。

【確認】[ t͡ʃ ]の発音の注意点

[ t͡ʃ ]の発音をするときの注意点を紹介します。

日本語の「チュ」と混同しない

とにかく、日本語の「チュ」の子音[ t͡ɕ ]と混同しないようにしましょう。

日本語の「チュ」でも通じないことはありませんが!

日本語の「チュ」よりも口を縦に開けて発音すれば[ t͡ʃ ]の発音になりますよ。

[ t͡ʃ ]の発音を前からみたところ
[ t͡ʃ ]の発音を前からみたところ

上のイラストを見ると、唇が少し丸まって、突き出ているとも言えますね!

今度は、日本語の「チュ」の子音[ t͡ɕ ]と[ t͡ʃ ]を発音したので、聴き比べてみてください。

最初に日本語の[ t͡ɕ ]を言ったあと、英語の[ t͡ʃ ]と言っています(これを2回繰り返している)。

似てはいますが、英語の[ t͡ʃ ]のほうが低い音ですよね。

母音をつけて「チュ」と言わない

[ t͡ʃ ]だけを発音するときに「チュ」の発音にならないように気をつけましょう。

日本語の「チュ」には「う」の発音、つまり母音が入ってしまいます。

子音は「音」、母音は「声」ということも知っておくと発音がよくなります。

日本語で[ t͡ʃ ]が使われる例

[ t͡ʃ ]の発音は日本語では使われません。

[ t͡ʃ ]のあとに「あ・い・う・え・お」をつけて、「t͡ʃa行」を発音してみました。

日本語の「ちゃ行」と同じように聞こえますが、「チュ」という音が強く聞こえませんか?

同じような音なので英語圏の人に日本語の「 CH 」の発音をしても通じます。でも、どこか「なまっている」ように聞こえてしまうのです。

では、「ちゃ行」と「t͡ʃa行」の発音記号をまとめました。

ちゃ行t͡ʃa行(日本語にはない)
ちゃ[ t͡ɕa ]*[ t͡ʃa ]
ち[ t͡ɕi ]*[ t͡ʃi ]
ちゅ[ t͡ɕɯ ]*[ t͡ʃɯ ]
ちぇ[ t͡ɕe ]*[ t͡ʃe ]
ちょ[ t͡ɕo ]*[ t͡ʃo ]
「ちゃ行」と「t͡ʃa行」

「う段」を[ u ]ではなく、[ ɯ ]と書いているのは、こちらのほうが日本語の「う」の発音に近いからです(参考: 日本語にある2種類の「う」について)。

まとめ

今回は日本語にある「チュ」の子音とは違う子音[ t͡ʃ ]について紹介しました。

この発音は日本語の「ちゃ行」の子音[ t͡ɕ ]と似ていますが別物です。

日本語なまりの発音でも通じますが、ぜひ練習して英語の[ t͡ʃ ]が発音できるように練習してみてください。

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アメリカ留学で言語に興味を持ち日本語教師に。その後、自分が「音声学」に猛烈に惹かれることに気づく。一般的には学ばない「日本語の音声」を学ぶことで英語の発音を習得し、独自の英語の発音習得メソッドを持つ。>>ヨスについて詳しくはこちら
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