今回は「破擦音」ってなに?という話についてです。
日本語の「つ」とか「ち」が破擦音なのですがどんな音なのか詳しく紐解いてみますね!
破擦音ってなに?
では「破擦音」という子音はどんな音声なのでしょうか?
音声データで紹介しますね。次の順に発音していっています。
破擦音とは?
- 破裂音 [ t ] [ t ]
- 摩擦音 [ s ] [ s ]
- 破擦音 [ t͡s ] [ t͡s ]
最後に言ったのが破擦音です。
破擦音というのは簡単に言うと「破裂音」と「摩擦音」とを同時に出す音声のことです。
破擦音とは?
「破裂音」と「摩擦音」を同時に出す音声
漢字を見ても
破裂 + 摩擦=破擦
ですよね!
ややこしいので3つの発音について1つ1つ解説します。
破裂音について
まずは「破裂音」について。
破裂音というのは、主に舌先を使って破裂させるように発音する子音のこと。
たとえば「た」という発音をするときの [ t ] の音がそうで、次の図を見てください。
上の図で、舌を上の前歯の根本あたりに付けて、勢いよく離して作る音です。
まるで破裂するかのように勢いよく出す音なので「破裂音」と呼びます。
くわしくは「破裂音について」をご覧ください。
摩擦音について
お次は「摩擦音」です。
これも、先ほどの [ t ] と同じく、舌先を歯の根本あたりにつけて……いるように見えますが、よく見ると、ほんの少しだけ舌と上あごの間にはスキマがあるんです!
そのスキマから「すきま風」を通すように出す音が [ s ] です。「スーッ」って感じの音。
空気を摩擦させて出す音だから「摩擦音」と呼ぶんですね。
破擦音について
そして今回の主役「破擦音」についてです。
厳密には「破裂音」+「摩擦音」ではない
文字で見るとこちらのようになり、「破裂音」と「摩擦音」が合体しているように見えます。
破裂音 + 摩擦音 = 破擦音
先ほど、「破裂音」と「摩擦音」が同時に起こるというふうに説明しましたが、厳密には違います。
たとえば、破擦音である [ t͡s ](「つ」の子音)」はこちらのように作られます。
破擦音 [ t͡s ] の作り方
- 「破裂音」と同じように舌を上前歯の根本にくっつける
- くっついているところを、ゆっくりと離す
- 離した瞬間に「摩擦音」が出る
厳密には「破裂」は起こっていないということですね。
でも、「破裂音」+「摩擦音」と覚えていて問題ないですよ!
【参考】破裂部分が摩擦であるものが「破擦音」
参考までに、「破擦音」は言語学者である川原繁人さんの著書『ビジュアル音声学』にはこちらのように説明されています。
「破裂音」は「破裂」を含んでこその「破裂音」であり、「破擦音」には「摩擦」は含まれているものの「破裂」は含まれていない。よって、「破擦音は破裂音の破裂部分が摩擦であるもの」とみなす方が正しい。
ビジュアル音声学より引用しました。
つまり「破擦音」を発音するとき、厳密な「破裂」は起こらず、代わりに摩擦が起こっているのです。
この書籍は言語学の基本を学ぶときにおすすめですよ。
破擦音の表記について
続いて、「破擦音」の発音記号について紹介しましょう。
破裂+摩擦だから [ t͡s ]
日本語の破擦音「つ」をアルファベットで書くときに「tsu」と書きますよね?
実は正式な「発音記号(国際音声記号)」でも、「つ」の子音は [ t͡s ] と書きます。
なんで2文字になるの?? 1文字にしろよなっ!!
……と思っていた人もいるかもしれませんが、破擦音の原理を知ると納得ではないでしょうか?
破裂音 [ t ] + 摩擦音 [ s ] だから [ t͡s ]
つまりこういうことです。
破裂音 [ t ]+ 摩擦音 [ s ]
破擦音 [ t͡s ]
せっかくなので正式名称を。
[ t ] | 無声歯茎破裂音 |
---|---|
[ s ] | 無声歯茎摩擦音 |
[ t͡s ] | 無声歯茎破擦音 |
濁音になると「 d͡z 」
せっかくなので、[ ts ] が濁音になると発音記号はどうなるのかを見てみます。
そのまんまです! 無声歯茎破裂音 [ t ] の濁音 [ d ] と無声歯茎摩擦音 [ s ] の濁音 [ d ]。
その2つが合体した「 d͡z 」になります。
[ d ] | 有声歯茎破裂音 |
---|---|
[ z ] | 有声歯茎摩擦音 |
[ d͡z ] | 有声歯茎破擦音 |
破擦音 [ tʃ ] の場合
英語には、破擦音がもう一つあります。
それが [ t͡ʃ ] です。
英語だと [ ch ] の発音がそうですね。たとえば「church」の発音では [ t͡ʃə́ːrt͡ʃ ] のように2回出てきます。
わたしが「church」と発音しているのをお聞きください。
「ch...ch...church」というのを2回言っていますが、[ t͡ʃ ] はこんな発音ですね。
前歯の根本より少し後ろに舌を持っていって発音します。
この場所は後部歯茎と呼ばれるため、 [ t͡ʃ ] の発音は「無声後部歯茎破擦音」と呼びます。
この [ t͡ʃ ] も、表記の通り破裂音 [ t ] と摩擦音 [ ʃ ] を同時に発音する音ですね。
[ t ] | 後部歯茎破裂音 |
---|---|
[ ʃ ] | 後部歯茎摩擦音 |
[ t͡ʃ ] | 後部歯茎破擦音 |
あれ? [ t ] は歯茎音じゃ?
カンのいい人はお気づきかもしれませんが、先ほど「歯茎破裂音」としてお伝えした [ t ] が後部歯茎音としても出てきます。
実は摩擦音以外は……
- 歯茎(上前歯の根本付近)
- 後部歯茎(歯茎の少し後ろ)
この2つの場所でも音がそこまで変わらないため、同じ音声記号で書きます。
厳密には音声が違うはずなので、 [ t ] の下に、「後ろ寄り」を意味する「 _ 」を入れます。
摩擦音 [ ʃ ] の発音
摩擦音 [ ʃ ] の発音ですが、日本語の「し」の子音よりも少し舌の位置を前に持っていきます。
[ t ] と [ ʃ ] を同時に出すのが [ t͡ʃ ]
というわけで、破裂音 [ t ] と摩擦音 [ ʃ ] を同時に出すのが破擦音 [ t͡ʃ ] です。
[ t͡ʃ ] が濁音になると [ d͡ʒ ]
ついでに [ t͡ʃ ] が濁音になった音について。
これは [ d͡ʒ ] という発音です。
「bridge」の「dge」の音ですね。
まとめ
いかがでしたか?
日常生活で「破擦音ってなに?」と会話に出ることは極めてまれですが、英語の発音を学ぶときに「どういうふうに発音するのか」を知ることは重要です。
ぜひ「破擦音」というものを知って、マスターしてくださいね!