日本語には「サ」に「 ゛(濁点)」が付くと「ザ」になります。これは表記だけでなく、音声的にも「サ」が濁っているだけなんです!
でも、「ハ」の発音が濁っても「バ」の発音にならないことをご存知でしょうか?
今回はこの日本語の謎に迫ります!
目次
日本語では「濁点( ゛)」が付くと「音が濁る」
日本語の「濁点( ゛)」は、音声で言うと「無声音」を「有声音」に変化させるという役割を持っています。
ほら、「た」が濁ると「だ」になりますよね?
「た [ ta ]」と「だ [ da ]」を発音するときの口の中を図で見比べてみましょう。
どちらも専門的には「歯茎破裂音」という音です。舌の先っちょを「上前歯の根本あたり」に一瞬当てて離し、破裂させるように出す音です。
「た」の子音「 t 」と「だ」の子音「 d 」の発音は、口の中では見事に同じ構えを取っています。
唯一の違いが、「のどの振動」です。「濁点」の付く「だ」は、のどを震わせて出す「た」の発音なんです。
「ハ行」+「濁点( ゛)」=「バ行」?
この法則ですが、すっごくわかりやすいですよね!
「サ行」+「濁点」=「ザ行」のように、ルールとして決まっていますから。
この「サ行」と「ザ行」の場合も、口の中の構えは全く同じで、単に喉を震わせて声を出しているかどうかの違いです。
「カ行」と「ガ行」も全く同じ法則ですが、今度は「ハ行」に濁点( ゛)を付けるとどうでしょうか?
ところが、音声で言うと、これは間違っているんです!!
「ハ行」ではなく、
「パ行」が濁った音が「バ行」
なんです!
「パ行」が濁ると「バ行」になる!
突然こんなことを言って、「??」と思われた方、ご安心ください。ちゃんと説明しますので。
「パ行」の子音「 p 」と、「バ行」の子音「 b 」を発音するときの口の中を見てみましょう。
どちらも「両唇破裂音」と呼ばれる音で、上唇と下唇を一瞬合わせてすぐに破裂させるように離すことで作られます。
実際に「ぱ・ば・ぱ・ば……」と交代交代で発音してみると、よく分かると思います。唇を同じように使って発音していますよね?
唯一の違いが、喉を震わせて声を出すかどうかなんです。
音声としては「パ行 [ p ]」の濁音が「バ行 [ b ]」ということが理解できたでしょうか?
「バ」は「パ」が濁った音なので、本来「バ」は
パ゛
と書くべきってことですね(笑)。
じゃあ「ハ行」が濁るとどうなるの?
ではここで1つの疑問が生じるハズです。
じゃあ、「ハ」の濁音はどんな音??
ちょっとマニアックになりますが、表でお見せします。
清音 | 濁音 |
---|---|
p | b |
h | ɦ |
なんか見たことのない「 ɦ 」という記号がありますよね。
実はこれが [ h ] の発音が濁った音なんです。
こちらが [ h ] の発音です。
[ p ] や [ b ] は唇を使って発音していたのに対して、[ h ] は喉の奥にある「声門」を使って発音していたんですね!
そして、こちらが [ h ] の濁った [ ɦ ] の発音。
日本語では通常は使わない音声なので知らない方が日本人の99%以上を占めることでしょう。
ですが、まれに無意識に使われることがあるんですよ!
たとえば「ごはん [ gohaN ]」という発音を急いで言ってみてください。
「ごあん」のような発音になりませんか? かといって「あ」ではないような?
このときの「は」の発音が [ ɦa ] です。つまり「ごはん [ goɦaN ]という発音をしているんですね!
上の発音記号で「ん」を [ N ] と言うふうに大文字で表記しているのはちゃんと理由がありますよ! 詳しくは日本語の「ん」にはいろんな発音があるをご覧ください。
もともと「ハ行」の発音は「パ」だった?
ここまで読んできて「ややこしすぎだろっ!!」と思いますよね……。
「サ」とか「タ」は、濁ったら(濁点が付いたら)、「ザ」と「ダ」のように発音としても対になっています。
なんで「ハ行」だけ、「パ行」+「濁点」=「バ行」なんでしょうか?
実は、実は、実は!!!
日本語の「ハ行」の発音は
奈良時代以前は「パ・ピ・プ・ペ・ポ」という発音だったんです!!
そんなバカな!?
……と言いたくなりますが、本当です。
実は、「ハ」という発音は、「パ [ pa ]」「ファ [ ɸa ]」「ハ [ ha ]」というふうに音声が変化していきました。
言語学ではこの現象を「唇音退化」と呼びますが、発音するときのエネルギーをちょっとでも省エネしようとする変化です(「パ」よりも「ファ」の方が発音がラク。「ファ」よりもさらに「ハ」の方が発音がラクです)
ここで、もう1つビックリの事実を紹介します。実は現在も「ハ行」を「パ・ピ・プ・ペ・ポ」と発音する地域も残っているんですよ!
ハ行の子音は、奄美大島・徳之島ではほとんどがhかɸ(F)である。奄美大島の佐仁のみ、pを残している。喜界島では北部でp、南部でhまたはɸである[10]。
奄美方言 - Wikipediaより引用しました。
奄美方言の一部では今も「ハ行」を「パ行」で発音する地域があるんですね。
厳密に言うと、「方言」というよりも、「元々の日本語の発音が今も残っている」と言ったほうが正しいですね!
音声オタクとしては、これを知って超テンションが上がりました。
まとめ
いやー、言語って面白いですよね。
言語の発音のイレギュラーさには、ちゃんと理由があるんです。ほかにもこんな記事もありますので、ぜひご覧くださいね。
英語の清音・濁音についてはこちらをご覧ください!