日本語で「色紙」という言葉があります。これは「色」と「紙」という2つの言葉が合体してできた言葉です。
でも不思議に思いませんか? なんで「いろかみ」じゃなくて「いろがみ」なんでしょうか?
今回はこの連濁という現象について紹介しますね。
連濁について
では連濁という言葉について詳しく紹介します。
連濁とは?
「連濁」とは、言葉が連なったときに、2つめの言葉の語頭子音が濁音化するという現象のことです。
いやー、言葉で説明するのは難しい(笑)。例を挙げた方がわかりやすいですね!
連濁の例
色 + 紙 = 色紙
後ろにくっついた言葉の語頭の発音が濁音になりました! これが「連濁」です。
連濁の例
今度は連濁する例をいろいろと見てみましょう。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
大 | 太鼓 | 大太鼓 |
色 | 紙 | 色紙 |
恋 | 文 | 恋文 |
きょうだい | ケンカ | きょうだいゲンカ |
青 | 組 | 青組 |
学習 | 机 | 学習机 |
ほら、「おおだいこ」のように、なにも考えずに「たいこ」の「た」を「だ(濁音化)」にして言っていませんか? 完全に無意識に!!
英語の「Flap T」という音声変化も近いのかも?
あと、英語で複数形の「s」を付けたときに「 f(清音)」が「v(濁音)」になるのも同じ現象だと思います。
【参考】連濁で「ぢ」「づ」が使われる
日本語では、「ぢ」「づ」という仮名はめったに見かけないのですが、必ず使われる場合があります。
そのルールの1つが連濁する場合です。
たとえば、「底」と「力」という言葉が合体したときに「底力」という言葉になります。
この場合、「力(ちから)」ということばが「ち」から始まるため、連濁すると「ぢ」になりますよね?
こういう場合は、「そこぢから」という仮名を使います。詳しくはこちらの記事もどうぞ。
連濁が起こる理由
では、なぜ2語がくっついたときに連濁が起こるのでしょうか?
2つの説があります。
発音しやすくするため
まずは、発音をしやすくするためだと言われています。たとえば、「色紙」を「いろかみ」と発音してみてください。
どちらが発音しやすい?
- いろかみ
- いろがみ
連濁して「が」になったほうが言いやすくないですか?
ちなみに韓国語も語頭だけ清音化し、文中は全部濁音化するという特徴があります。似てますねー。
1つの単語であることを分かりやすく表現するため
そして、「か」の発音のまま「いろかみ」と発音すると、「色」と「紙」の境目が強く感じられませんか?
2つ目の語の頭を濁音にすることで、音声的に柔らかく聞こえ、合体した「1つの語」として聞こえやすくなる効果があるのです。
濁音化すると、1つの単語になって聞こえるという現象は鼻濁音「か゜」も同じ理由ですね。
連濁のルール
さて、2つの語が合体すると起こる「連濁」ですが、連濁が起きないこともあります。
いくつかのパターンがある連濁のルールについて紹介します。
2つ目の語が「外来語」の場合は濁らない
外来語が2つ目の語に来るときは、濁りません。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
スマホ | ケース(英語) | スマホケース |
和 | カルタ(ポルトガル語) | 和カルタ |
十六文 | キック(英語) | 十六文キック |
運動 | 会(漢語) | 運動会 |
民間 | 放送(漢語) | 民間放送 |
「スマホゲース」とか、「うんどうがい」とかものすごく違和感ありますよね(笑)。
同じ発音でも和語と漢語で違う
おもしろいことに、同じ発音でも連濁になるもの、ならないものがあります。
たとえば「会」と「貝」。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
運動 | 会(漢語) | 運動会 |
巻き | 貝(和語) | 巻き貝 |
同じ発音とはいえ、「漢語(外来語)は濁らない」という法則にのっとり「会」は濁りません。
それに対して、「貝」は和語なので濁ります。
ほかにも、「ほら貝」「赤貝」など、「貝」は濁りますね!
ただし連濁化する漢語もある
漢語は連濁化しないと書きましたが、実は10%ぐらいは連濁化します。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
単行 | 本(漢語) | 単行本 |
黒 | 砂糖(漢語) | 黒砂糖 |
「本」「砂糖」ともに生活に密着しすぎていることが原因かもしれません。
1つ目の語が外来語の場合は連濁になる
外来語は連濁しないと書きましたが、逆に1つ目の語だけが外来語の場合は当然ながら濁ります。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
しゃぼん(ポルトガル語) | 玉 | しゃぼん玉 |
リニューアル(英語) | 版 | リニューアル版 |
あんまり例がないですけど。
日本語に馴染みすぎた外来語は連濁になる
さらには、あまりにも日本語に馴染みすぎて、日本人すら「日本語」と認識しているレベルの外来語の場合は2つ目の語でも濁ります。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
雨 | かっぱ(ポルトガル語) | 雨がっぱ |
いろは | カルタ(ポルトガル語) | いろはガルタ |
これは面白いですね。
ちなみに、「かっぱ」「カルタ」は漢字が割り当てられ「合羽」「歌留多」と書くレベルですね。
2つ目の語の中にすでに「濁音」がある場合は濁らない
そして、濁らないもう一つのパターンが、最初から2つ目の語に「濁音」がある場合です。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
錦 | ヘビ | 錦ヘビ |
手 | 鏡 | 手鏡 |
大 | トカゲ | 大トカゲ |
通勤 | かばん | 通勤かばん |
「ニシキベビ」とか「手ガガミ」だったら、超読みづらいですね(笑)。
同じ語の中に濁音が連続して出てこない現象を「ライマンの法則」と呼びます。
1つ目の語が濁っている場合は法則性がない
1つ目の語が濁っている場合は、法則性がよくわかりません。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
勾 | 玉 | 勾 玉 |
壁 | 紙 | 壁紙 |
鍋 | 蓋 | 鍋蓋 |
「まがたま」は濁らないのに、「かべがみ」は濁るという……。
言葉っておもしろいですねー。
促音の後は濁らない
さらに、促音のあとにくる場合も濁りません。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
赤 | 子 | 赤子 |
穴 | 子 | 穴子 |
ひとり | 子 | ひとりっ子 |
これは発音してみればわかりますが、促音のあとに濁った音は発音しにくいです。
並列構造の場合は濁らない
言葉が並列構造で成り立っている場合は濁らないという法則があります。
これは説明が必要ですよね。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
仕事 | 帰り | 仕事帰り |
行き | 帰り | 行き帰り |
尾 | ひれ | 尾びれ (魚にある「ひれ」の種類) |
尾 | ひれ | 尾ひれ (「尾」と「ひれ」の並列) |
「行き帰り」は「行くこと」と「帰ること」の2つを並列した表現なので、濁りません。
「やけ食い」は濁るけど、「飲み食い」は濁らないのも同じです。
「尾びれ」と「尾ひれ」では意味が変わってくるのもおもしろいですよね。
「あの人は話に尾びれをつけて話す」と言わずに「尾ひれをつけて話す」と言わないとおかしいですよね(笑)。
複合語を修飾するときは濁らない
複雑なのが「枝分かれ構造」の例です。
こちらの例を見てください。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
塗り | 箸入れ | 塗り箸入れ (色が塗られた「箸入れ」) |
塗り箸 | 入れ | 塗り箸入れ (「色が塗られた箸」を入れるもの) |
にせ | タヌキ汁 | にせタヌキ汁 (ニセモノの「狸汁」) |
にせダヌキ | 汁 | にせダヌキ汁 (「ニセモノのタヌキ」の汁) |
3つの複合語で、「箸入れ」という2語の複合語を修飾する場合は、連濁になりません。
これは「塗れ」という言葉が、「箸」を修飾しているのか、「箸入れ」を修飾しているのかを区別するためですね。
つまり、「箸」という言葉が「塗り」に属するのか、「入れ」に属するのかを濁音化の有無で区別しています。
2つ目の語が目的語になる場合は濁らない
そして、2つ目の語が目的語になる場合は濁りません(参考: 英語の「目的語」について)。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
缶 | 蹴り | 缶蹴り (缶を蹴る) |
回し | 蹴り | 回し蹴り |
パン | 食い | パン食い (パンを食べる) |
遊び | 食い | 遊び食い |
玉 | 突き | 玉突き (玉を突く) |
正拳 | 突き | 正拳突き |
爪 | 切り | 爪切り (爪を切る) |
みじん | 切り | みじん切り |
構造として「缶蹴り(缶を蹴る遊びの名前)」や「パン食い(パンを食べる競技の名前)」のように、なっている場合は濁らないようです!
ただし、ゲームやマンガに出てくる「必殺技」の名前では濁ります。
必殺技の名前
- メタル斬り(メタル系モンスターにダメージを与える技)
- ドラゴン斬り(ドラゴン系モンスターに大きなダメージを与える技)
技の名前なので濁音化することで、「つながっている」雰囲気を出しているのでしょうか?
地域によって連濁にならないことを好む地域がある
地域によって連濁を起こしにくい地域もあり、次のように連濁する読みと連濁しない読みが存在します。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
山 | 崎 | 山崎 |
中 | 島 | 中島 |
研究 | 所 | 研究所 |
漢字研究で知られる早稲田大学教授の笹原宏之さんによると次のように推測されるんだそうです。
概して、西日本では清音の澄んだ響きが好まれ、東日本では発音が濁音になりやすい傾向があるとされる。
山崎ってどう読む ザ?サ? 名字の不思議|NIKKEI STYLEより引用しました。
「西日本では濁らないことがあり、東日本では濁る」というルールがあるようです。
四国出身のわたしは「かき氷」を「かきこおり」、「3階」を「さんかい」と読むことに今気づきましたっ!
「撥音」のあとは連濁になる
最後に「撥音」のあとは連濁がしやすいという例です。
1つ目の語 | 2つ目の語 | 合体した語 |
---|---|---|
三 | 階 | 三階 |
隣 | 国 | 隣国 |
「階」も「国」も音読みなのですが、前に「ん」がくるため、連濁になっています。
今回の記事執筆にあたって、「国立国語研究所」のYouTubeチャンネルも参考にさせていただきました。
まとめ
さて、今回は日本人のネイティブでも知らない「連濁」という音声変化を紹介しました。
ほかに、和語同士の組み合わせでも「
青空」のように連濁になるものもあれば、「
組紐」のように連濁にならないものも普通にあります。
規則性は完全には見つかっていないそうですので、いろいろ調べてみてください。言葉って面白いなぁ。
英語の濁音化についてはこちらの記事をどうぞ。