今回は発音記号である[ ɹ ]の発音(後部歯茎接近音)についてです。
この記号[ ɹ ]は、いわゆる英語の「 R 」の発音記号です。
ただし、辞書では[ ɹ ]の記号ではなく、[ r ]が使われているのでほとんどの人がはじめて目にしたかと思います。
日本語にはない発音ですが、「ら行」や「 L の発音」とはどこが違うのでしょうか?
この記事では「 R の発音の仕方、「 R 」の発音のコツなどをくわしく解説します。
「 R 」の発音は、地域や個人によって発音にかなり差があります。本記事で紹介するアメリカ英語の「 R 」の発音は、厳密には[ ɹ ]もしくは[ ɻ ](そり舌)になる場合が多いですが、すべて[ ɹ ]で表記しています。
目次
英語の「 R[ ɹ ]」はどんな音声?
まずは、発音記号の[ ɹ ]の音声、つまり英語の「 R 」の発音を聞いてみましょう。
次のような発音になります。
あれ?「ラ」じゃなくて、こもったような「アー」という音に聞こえますよね。
英語の「 R[ ɹ ]」の発音の仕方
では、英語の「 R[ ɹ ]」は、こちらの図のような構えで発音されます。
[ ɹ ]を発音するときは、こちらの図のように舌の前のほうを使って発音されます。
もしくは、次のように舌を配置して発音することもできます。
そうなのです。[ ɹ ]の発音の仕方は1つではないのです。
え! そんなにいっぱい発音方法があるの?
つまりどんな方法であれ、次のような手順を踏めば[ ɹ ]の発音になるということですね。
[ ɹ ]の発音をする手順
- 舌と「後部歯茎」を接近させる(声が出る通路を狭くする)
- 舌と後部歯茎の間から「アー」という声を流す
日本語にはない発音であるため、日本人にとっては慣れるまでは難しいでしょう。
[ ɹ ] は、専門的には「後部歯茎接近音」という発音です。
さらに詳しく紹介します。
【のどの震え】[ ɹ ]の発音は「有声音」
[ ɹ ]の発音は有声音です。
そのため、のどの震えがあります。
声帯振動(のどの震え)についてはこちらをどうぞ。
【発音される場所】[ ɹ ]の発音は「後部歯茎」で作られる
[ ɹ ]の発音をするときは舌先から前舌のあたりを使います。
舌を、歯茎の少しうしろに位置する「後部歯茎」に近づけて発音しますよ。
口の中の名称についてはこちらをどうぞ。
【発音する方法】[ ɹ ]の発音は接近音
英語の「 R[ ɹ ]」の発音は、舌と上あご(後部歯茎)との間の通路を接近させて(せまくして)音を作る「接近音」と呼ばれる音です。
先述したように、この発音をする方法はいろいろとありますが、以下の2つの方法で発音する人が多いです。
では1つ1つ詳しく見ていきましょう。
「そり舌のR」の発音方法
まずこちらが「そり舌のR」と呼ばれる発音の仕方です。
舌先を反らせることで、舌先と上あごの後部歯茎あたりを接近させます。
舌の根本は少し「うしろに引くこと」を意識するときれいな発音になりますよ。
こちらのような音が出ましたか?
この動作が「巻いている」ように見えるため、「巻き舌」のような表現をする人もいますが、これは間違った表現になります。
音声学では「舌を反っている」と表現します。
詳しくは後述しています。
「盛りあがりのR」の発音方法
もう1つが「盛りあがりのR」と呼ばれる発音の仕方です。
「前舌」と呼ばれる、「舌の前のほう(舌先ではない)」を後部歯茎に近づけます。
舌の先っぽは下がっていて、前舌が「盛りあがって」いるため、「盛りあがりのR」と呼ばれます。
どちらの口の構えで発音するべき?
さて2種類の[ ɹ ]の発音方法を紹介しましたが、どちらを真似するべきか迷いますよね。
どちらかを選ぶとしたら、「こちらのほうがいい」という優先順位などはあるのでしょうか?
実はありません。どちらでもOKです。
どちらもほぼ同じ音になりますから。
音声学の専門家である川原 繁人さんの著書『ビジュアル音声学』にこう書かれてあります。
最近の研究では驚くべきことに、同じ家族でも同じ方法で[r]を発音するとは限らず、同じ話者であっても、時に「反り舌のr」、時に「盛りあがりのr」を使うことが報告されている。
『ビジュアル音声学』(三省堂)
同じ家族内でも違う発音方法をする人もいるし、個人でもそのときによって発音方法が違うというわけです。
舌の位置がどうの……よりも「[ ɹ ]の音が出ているか?」が重要ということですね!
【ポイント】[ ɹ ]を発音するときのコツ
繰り返しになりますが、[ ɹ ]の発音で大切なのは「舌の形」ではありません。
重要なのは、
舌と上あごが接近し、[ ɹ ]の音を出すことです。
では[ ɹ ]を発音するときの具体的なコツを紹介します。
【そり舌のR】「あー」と言いながら舌先を上あごに近づける
ではまず1つ目は「そり舌のR」の発音のコツを紹介しましょう。
日本語で「あーーーー」と言っている途中で、舌先を上前歯の後ろあたりに近づけていってみてください。
わたしが発音している音声データもご参考に。
注意したいのは舌先はあくまで上あごに近づけるだけで、くっつけないということ!
そして、「舌の先」を少し丸めることを意識しましょう。
舌の根本をうしろに引くことを意識することも忘れずに!
もし、すでに「 L 」の発音ができる人の場合、[ l ]の発音をしながら、舌先を歯茎から離しつつ、舌の根元をうしろに引くようにすると発音しやすいです。
犬が怒って「ウゥゥゥゥ」と唸り声を上げているような声になれば[ ɹ ]の発音になっているはず。
【盛りあがりのR】舌を後部歯茎に近づけて舌先を下に
上のやり方がわかりづらい場合は「盛りあがりのR」の発音に挑戦しましょう。
こちらの図を見てください。
上の図のように、前舌を上あご(後部歯茎)に近づけて、舌先だけを下げるイメージです。
前舌というのはこちらの部分ですね。
「盛りあがりのR」の発音では、舌先は下に下がっています。
そして、舌先はどこにも触れないということも重要なポイントです。
こんな音が出ましたか?
母音が付いてはじめて「ら」っぽい音になる
さて、[ ɹ ]の発音のコツを紹介していますが、こんなふうに思ったのではないでしょうか?
「 R 」の発音って、「ら」っぽいんじゃなかったの?
そうです。わたしがこの記事で紹介している音声はこちらのように「あー」に近い音声ばかり。
「ら」のような音とは違いますよね?
実は[ ɹ ]の発音は、[ ɹ ]だけを発音したのでは「あー」のような音になります。
ところが、[ ɹ ]のあとに母音を付けてみると……?
この例では「あ」を付けて、[ ɹa ]と言ってみましたが、「ら」っぽい発音になりましたよね。
とは言っても、日本語の「ら」とはぜんぜん違う音なのでご注意ください。
[ ɹ ]が「ら」のように聞こえるのはうしろに母音がくっつくときだけです。
[ ɹ ]のうしろに母音がくっつかないと「ただの伸ばし音みたいな音」なんですね。
口を大きく開かない
そのほかの[ ɹ ]を発音するコツは、下あごをあまり下に引かないことです。
「口を大きく開けない」ということですね!!
ここで、「あー」と言いながら[ ɹ ]の発音に変化させる音声を聞いてください。
このときも、「あー」から[ ɹ ]に移り変わるとき、下あごを上に少し持ち上げます(少し口を閉じる)。
【[ ɹ ]からはじまる単語の場合】かなり口を丸める
「 r 」からはじまる単語、つまり[ ɹ ]の発音からはじまる単語の場合に覚えておきたいコツがあります。
それは、口をかなり丸めてから発音するということ。
唇をタコの口のように思いっきり丸めて「うー」と言いながら、「right(正しい・右)」の発音をしてみてください。
「right」や「write」なら、[ ゥɹaɪt ]と、「run」なら[ ゥɹʌn ]と発音するイメージで!(厳密には[ ɹ̠ʷaɪt ][ ɹ̠ʷʌn ]のように表記)
これは文の頭にくるときだけで、文中や文末にくるときは唇はリラックスします。唇も丸めませんよ。
慣れてくると、唇を丸めなくても[ ɹ ]の発音が出せます。
最終的には、唇は丸めても丸めなくてもOK! とにかく[ ɹ ]の音になればいいだけです。
「や行」の子音より少し前の位置で「接近」させる
[ ɹ ]は「接近音」という種類の発音ですが、仲間に「や行」の子音である[ j ]もあります。
その[ j ]の発音を確認してから[ ɹ ]の練習してもいいですね。
こちらが[ j ](「や行」の子音)の発音をするときの口の中です。
そして次の図が[ ɹ ]を発音するときの口の中。
違いは「舌を上あごに接近させている場所」です。
[ j ]は[ ɹ ]よりも、少し後ろの位置で接近させています。
つまり[ j ]の発音よりも少し前のほうで、舌と上あごを接近させると[ ɹ ]の発音になるということです。
【確認】[ ɹ ]の発音の注意点
今度は、[ ɹ ]の発音をするときの注意点を紹介します。
「摩擦音」ほど狭めない
舌を上あごに接近させる音声として、「摩擦音」もあります。
「摩擦音」というのは、舌を上あごにくっつけてほんの少しのスキマを作り、そこから「スキマ音」を出す発音です。
たとえばこちらは「摩擦音」の一種である[ ʃ ](英語の「sh」)を発音するときの口のなか。
[ ʃ ]も[ ɹ ]と同じく、「後部歯茎」に舌を近づける発音ですが、[ ɹ ]よりもさらに近づけます。
「近づける」というか、「接している」と言っていいです。
こちらは[ ɹ ]の発音をしているときの口のなか。
「接近音」である[ ɹ ]のほうが、上あごと舌とのスキマが断然広いですよね。
「舌先」以外は上あごや歯に触れてもOK
市販の発音の本やネット上では「舌をどこにも付けない」と書いているものがほとんどです。これがまどわせるんですよね……。
ですが、多少は付けても問題ないのです。
舌先さえどこにも付いていなければOK!
舌の側面や、舌の根本は上あご、もしくは上の歯(の内側)に多少触れても問題ありません。
わたしが発音する場合は、舌の両側面が上の歯の内側にけっこう当っています(舌の図を参照)。
【アメリカ英語のみ】母音のあとの「 r 」をしっかり発音する
そして、アメリカ英語の場合だけですが、覚えておくことがあります。
それが「R音性母音(R-colored vowel)」です。
「R音性母音」というのは、アメリカ英語独自のねばっこく伸ばして発音する母音のことです。
「R音性母音」というのは、母音のうしろに[ ɹ ]の発音が合体し、[ ɹ ]の発音を含んだ母音のこと。
たとえば、こんな発音です。
次の5つを順番に発音していますが、母音に「 r[ ɹ ]」の発音がくっついた音声ですね。
R音性母音
- [ ɑɹ ]
- [ əɹ ]
- [ ɛəɹ ]
- [ ɔɹ ]
- [ ɪəɹ ]
このねばっこそうな「 [ ɹ ]の発音と一体化した母音」が、アメリカ英語の大きな特徴です。
今度は単語の中に「R音性母音」が入っている例を聞いてください。
R音性母音を含む単語
- car[ kɑɹ ]
- teacher[ tiːtʃəɹ ]
- chair[ tʃɛəɹ ]
- more[ mɔɹ ]
- here[ hɪəɹ ]
この「R音性母音」の「 r[ ɹ ]」の発音ですが、「right」のように文章の頭に出てくる「 r[ ɹ ]」の発音とまったく同じ音です。違う発音に聞こえますけどね。
英語の「 R 」の発音は「新しい音声」を学ぶ気持ちで!
この[ ɹ ]の発音ですが、先述したようにほとんどの辞書では[ r ]の記号で書かれています。
そのため、こんなふうに思ってしまうかもしれません。
英語の「 R 」の発音って、日本語の「ら行」に近いんだよね。
これは間違いです!
英語の「 L 」の発音も「 R 」の発音も、日本語の「ら行」とはまったく別モノです!
比較のために、日本語の「ら行」と、[ ɹ ]を子音にした[ ɹa ]行を言ってみました。
このようにまったく違う音声なので、新しい音声を学ぶ気持ちでいてください。
【補足】「巻き舌」という言葉について
よく「英語の『 R 』は巻き舌だ」みたいな言い方をしますが、厳密にはその表現はまちがっています。
本来、「巻き舌」というのは「イタリア語」や「スペイン語」で使われる「ルァ」のような音です。
こちらの音声を聞いてみてください。4つの「ら」っぽい音で「ドラえもん」と言っています。
4種類の内訳はこちらになっています。
4種類の「ら」
- 普通の日本語の「ら」で発音(発音記号は[ ɾa ])
- 英語の「 L 」で「ら」を発音(発音記号は[ la ])
- 英語の「 R 」で「ら」を発音(発音記号は[ ɹa ])
- 巻き舌の「ら」で発音(発音記号は[ ra ])
こんな順に言っていてよく似ている気もしますが、4つともまったく違う発音です。
補足ですが、発音記号[ r ]は本来、イタリア語などにある「 r 」の発音(巻き舌の「 R 」)を表す発音記号です。厳密には[ r ]は「歯茎ふるえ音」と呼ばれます。
日本語で[ ɹ ]が使われる例
[ ɹ ]の発音は日本語では使われません。
英語の[ ɹ ]を発音するときに日本語の「ら行」に置き換えると伝わりにくいことを知っておきましょう。
ら行 | ɹa行(日本語にはない) |
---|---|
ら[ ɾa ] | *[ ɹa ] |
り[ ɾi ] | *[ ɹi ] |
る[ ɾɯ ] | *[ ɹɯ ] |
れ[ ɾe ] | *[ ɹe ] |
ろ[ ɾo ] | *[ ɹo ] |
「う段」を[ u ]ではなく、[ ɯ ]と書いているのは、こちらのほうが日本語の「う」の発音に近いからです(参考: 日本語にある2種類の「う」について)。
ちなみに、[ ɹ ]に「あ・い・う・え・お」をつけた「ɹa行」を音声にしてみたのでご参考に。
日本語の「ら行」についての記事もご参考に。
インスタでも投稿しています!
まとめ
今回は、英語の発音の中でもかなり日本語とは違う発音の「 r[ ɹ ]」について紹介しました。
とにかく日本語の「ら行」の発音は完全に忘れてください。かなりの違いがある音なので。
英語の発音のなかでも、特にL と R の発音の区別は日本人にとっては難しいと思いますが、この違いは慣れるしかありません。
「聞き分ける」よりも「発音をする」ほうが難易度が低いので、まずは発音の練習をオススメします。