日本語の「ざ行」をアルファベット(ヘボン式ローマ字)で書いたとき、「じ」だけ「ji」と書くことに疑問を持ったことはありませんか?
ざ | じ | ず | ぜ | ぞ |
---|---|---|---|---|
za | ji | zu | ze | zo |
実はちゃんとした理由があるのです。
今回は、日本語の「ざ行」には[ z ][ ʑ ]という2つの子音が混在しているというお話です。
2つの子音の発音方法、本来の「あいうえお表」など、くわしく紹介します。
目次
なぜローマ字では「じ(ji)」と書くの?
なぜ「ざ行」の「じ」は、ローマ字(ヘボン式)で「zi」のように書かないのでしょうか?
ビックリする事実ですが、「ざ行」には2つの子音が入れ混じっていることが原因です。
ローマ字で書いたときに違和感をもつ「ji(じ)」の謎を解いていきましょう。
ローマ字表記の法則に当てはまらない「ざ行」
「じ」のスペルである「ji」の原因をお話しする前に、ローマ字の基本について紹介しますね。
ローマ字で「か行」では「 k 」を使います。
同じ行には同じ子音を使うという前提があり、「か・き・く・け・こ」をローマ字で「ka・ki・ku・ke・ko」と書きますよね?
なぜ同じアルファベットを使うのかというと、「か行」はすべて同じ発音の子音が使われているからです。
「か・き・く・け・こ」を発音したら、のどの近くのほうで作られているのを感じられますか?
つまり「か行」の発音は[ k ]という子音の発音(のどの奥にある軟口蓋で破裂音を作る)でそろっているのです。
「[ k ]の発音でそろっている」というのは、口のなかで音声を作っている位置や発音方法がまったく同じという意味。
ところが、「あ段〜お段」で子音の発音がそろっていない行があり、そのうちの1つが「ざ行」なのです(ほかには「さ行」や「は行」も)。
次の表が「ざ行」の発音記号になります。
ざ | [ za ] |
---|---|
じ | [ ʑi ] |
ず | [ zɯ ] |
ぜ | [ ze ] |
ぞ | [ zo ] |
「う段」を[ u ]ではなく、[ ɯ ]と書いているのは、こちらのほうが日本語の「う」の発音に近いからです(参考: 日本語にある2種類の「う」について)。
上の表にあるように、「じ」の子音の発音は[ z ]ではありません。
「ざ行」を本来の「あいうえお表」に分類
実は「じ」の子音は[ z ]の発音ではないため「ざ行」ではない「本来の行」に入るべきなのです。
本来の分類
じじゃ行
わかりにくいと思うので、こちらの「『ざ行』の本来の分類」をまとめた表をご覧ください。
ざ行 | じゃ行 |
---|---|
ざ[ za ] | じゃ[ ʑa ] |
ずぃ[ zi ] | じ[ ʑi ] |
ず[ zɯ ] | じゅ[ ʑɯ ] |
ぜ[ ze ] | じぇ[ ʑe ] |
ぞ[ zo ] | じょ[ ʑo ] |
なんと、「ざ行」には「ざ」「ず」「ぜ」「ぞ」だけが所属し、「じ」は「じゃ行」に入ります。
ちなみに、古来の日本語では「じ」は[ zi ](ずぃ)と発音していました!
四つ仮名についても知っておくとおもしろいですよ。
【補足】ローマ字で「zi」と書くのも正しい
本記事を読むと、「じ」を「ji」と書くことが当然のように見えます。
ですが、これはあくまで「ヘボン式ローマ字」でのルールでの話です。
ローマ字にはヘボン式だけでなく、訓令式ローマ字(=小学校低学年で習うローマ字)も存在し、そちらでは「じ=zi」と書きます。
どちらが正しいというわけではなく、ただ単にヘボン式のほうが普及していて目にすることが多いだけですよ。
町の中では「国分寺」なら「kokubunzi」ではなく、「kokubunji」のように書いているのを見かけますよね。
2つの子音[ z ][ ʑ ]の発音の違い
では、ローマ字で異端となる「じ」が「ざ・ず・ぜ・ぞ」と発音上ではどう違うのかを解説します。
1つ1つの発音を比べてみましょう。
最初に解説すると、どちらも「有声(のどの震えがある)」で「摩擦音」という共通点があります。
「摩擦音」とは、口のなかの一部をせまくして「スキマ」を作ってできる音です。
発音の仕方は同じですが「口の中のどこで摩擦音(スキマ音)を作っているか?」が違います。
「ざ・ず・ぜ・ぞ」の子音は[ z ](有声歯茎摩擦音)
まず、「ざ・ず・ぜ・ぞ」の子音は[ z ]の発音になります。
「ざ行」とは違う「za行」の発音とは?
「ざ行」の子音だけを発音したものがこちらです。
この発音は「歯茎」と呼ばれる場所で作られます。
そして、この[ z ]に「あ・い・う・え・お」の発音をくっつけ、「za行」を発音すると次のようになります。
「za行」では、「い段」が「ずぃ」になっていることにも注目です。
「za行」の発音記号表
日本語の「ざ行」と、[ z ]に「あ・い・う・え・お」をくっつけた「za行」の発音記号はこちらになります。
ざ行 | za行 |
---|---|
ざ[ za ] | ざ[ za ] |
じ[ ʑi ] | ずぃ[ zi ] |
ず[ zɯ ] | ず[ zɯ ] |
ぜ[ ze ] | ぜ[ ze ] |
ぞ[ zo ] | ぞ[ zo ] |
「い段」が違いますよね。
[ z ]を発音するときの口の構え
口の中の構えがどうなっているのかを図で見てみましょう。
[ z ]の発音は、上前歯の根本にある「歯茎」と呼ばれる部分で作られます。
[ z ]は専門的には「有声歯茎摩擦音」と呼ばれます。
「じ」の子音は[ ʑ ](有声歯茎硬口蓋摩擦音)
続いて、「じ」の子音を詳しく見ていきましょう。
「じ」の子音は発音記号で書くと[ ʑ ]になります。
じゃ[ ʑa ]行の発音とは?
[ ʑ ]は、[ z ]と違い、歯茎から硬口蓋まで広い部分に舌をくっつけて発音します。
では[ ʑ ]の発音をしてみましょう。
そして、この[ ʑ ]に「あ・い・う・え・お」の発音をくっつけ、「じゃ[ ʑa ]行」を発音すると次のようになります。
どうでしょうか?「じ」は「じゃ行」にあるほうがしっくりきませんか?
「じゃ[ ʑa ]行」の発音記号表
日本語の「ざ行」と、[ ʑ ]に「あ・い・う・え・お」をくっつけた「じゃ[ ʑa ]行」の発音記号はこちらになります。
ざ行 | じゃ[ ʑa ]行 |
---|---|
ざ[ za ] | じゃ[ ʑa ] |
じ[ ʑi ] | じ[ ʑi ] |
ず[ zɯ ] | じゅ[ ʑɯ ] |
ぜ[ ze ] | じぇ[ ʑe ] |
ぞ[ zo ] | じょ[ ʑo ] |
「じ」は本来、「じゃ行」に属する仮名だったんですね!
[ ʑ ]を発音するときの口の構え
[ ʑ ]は、口の中の歯茎から硬口蓋(上あごの硬い部分)までの広範囲に舌をくっつけ、小さなスキマを作ることで発音されます。
上の図で音が作られている場所(ピンクの部分)をご確認ください。
さきほど[ z ]の発音は歯茎だけでしたが、かなり広い範囲で発音が作られていますよね。
つまり、[ z ]とはまったく違う子音ということです!
専門的に言うと、「じ」は「歯茎」と「硬口蓋」を合わせた範囲で作られるため、「有声歯茎硬口蓋摩擦音」と呼びます。
破擦音化する「ざ行」について
この記事で紹介している「ざ行」ですが、ある条件下で次のように発音が変化します。
ざ行(摩擦音) | ざ行(破擦音) |
---|---|
ざ[ za ] | ざ[ d͡za ] |
じ[ ʑi ] | じ[ d͡ʑi ] |
ず[ zɯ ] | ず[ d͡zɯ ] |
ぜ[ ze ] | ぜ[ d͡ze ] |
ぞ[ zo ] | ぞ[ d͡zo ] |
なんか「 z 」の前に「 d 」がくっついている?!
どういうことなのかを説明するために、「ざしき(座敷)」と「おざしき(お座敷)」にある「ざ」の発音を聞いてみましょう。
ナチュラルスピードで発音してくださいね!
実は、語頭「文頭」に来る「ざ」の発音は、「ッズァ!」という感じの発音である「破擦音」になります。
摩擦音から、破擦音に音声が変化しているという現象ですが、くわしくは2種類の「ざ行」についてをご確認ください。
まとめ
今回は、「ざ行」には2つの子音[ z ][ ʑ ]が混在しているというお話でした。
「ざ行」の発音まとめ
実は子音が混在している行は、「た行」や「は行」も同じです。ぜひこちらの記事もご参考に。