ネイティブスピーカーが話す英語の発音を聞いて「ええ?! なんか今まで勉強してきた発音と違う?」という経験をしたことはありませんか?
たとえば「water(水)」の発音が「ウォーター」ではなく「ワラー」のように聞こえたり。
これには実は発音のルールがあるんです。今回はそのルールの1つである「Flap T(フラップ T)」について紹介します。
「Flap T(フラップ T)」という音声変化について
わたしが若いころ、英語のネイティブ(アメリカ人)が「water(水)」と発音するのを聞いて、こんなふうに思いました。
どうがんばって聞いても「ウォーター」に聞こえないんですけど!!
そう。どんなにがんばって聞いても「ワラー」のようにしか聞こえないんですよ。
でもこれ、特定のアメリカ人だけのクセではありません。じつは、「フラップ T(Flap T)」と呼ばれるちゃんとした法則があるんです!
「フラップ T」とは?
「フラップ T」とはどんな法則なのでしょうか?
まず、「flap」という単語は「軽く打つ」とか「はじく」という意味です。
[ t ] の発音をするときに、口の中(上あご)を軽く「flap」させて発音する [ t ] の発音を「フラップ T」と呼びます。
ふつうの[ t ] と「フラップ T」の比較
では音声で確認してみましょう。
下の音声では「ふつうの T」と「フラップ T」の発音比較をしています。
こんな順に言っていますよ。
- 「water」の「 t 」をちゃんと発音したもの
- 「water」の「 t 」を「ら」っぽく発音したもの
- 「better」の「 t 」をちゃんと発音したもの
- 「better」の「 t 」を「ら」っぽく発音したもの
ぜんぜん発音が違うことがおわかりでしょうか?
イギリス英語では省略されない
知っておいてほしいのですが、ふつうに「 t 」の音声で「water」と発音するのが正式な発音です。
そもそも「フラップ T」という音声変化はアメリカ英語の特徴で、イギリス英語ではそのまま「 t 」の発音をしますからね。
ただ、話している相手がアメリカ英語を使う場合、「フラップ T」という法則を知っていないと混乱するので、使わなくても知っておく必要があります。
なぜ「Flap T(フラップ T)」になるの?
ではなぜ、こんなふうに [ t ] の発音が変化するのでしょうか?
簡単に言うと、発音をラクにして省エネするためです。
人間は話し言葉を省略する
人間は、一日のうち、何千何万という単語を使って話しています。莫大な数の音声を口から発しているんですねー。
大変なので、
少しでも省エネしたいんです!
日本語でも「タピオカティーを飲みに行く」ことを「タピる」って言いますよね?
いちいち「タピオカティー飲みに行かない?」って言うより、「タピらない?」って言ったほうがラクなのは誰しもが思うことでしょう。
[ t ] は非常にパワーの必要な発音
そして、たくさんある発音の中でも [ t ] は特にパワーが必要な「破裂音」という種類の音声です。
ではどうやって [ t ] が発音されるかというと、こちらの図を見てください。
[ t ] は、舌先を上の前歯の根本あたりにくっつけ、離すときに破裂させるように「トゥッ!」という音声を出して作ります。
ここで、先ほど聞いた発音をもう一度聞いてみましょう。
ふつうの [ t ] の発音で言った方がしんどそうじゃないですか?
「しんどそう」なだけでなく、実際にエネルギーを使うんですよね。
日本語の「ら行」の子音にも聞こえる
「フラップ T」で変化した [ t ] の発音は、 [ d ] の発音に聞こえることもありますし、日本語の「ら行」の子音 [ ɾ ] のような音声に聞こえることもあります。
この「フラップ T」の音は、厳密には英語の [ d ] とも、日本語の [ ɾ ] とも違います。
似ているのですが、全く同じだと思って発音しないようにしてください!
省エネが目的なので発音は厳密じゃない
「フラップ T」という現象は、省エネとして発音をラクにすることが目的です。
そもそも、[ t ] の音声が別の音声に変わっていることにネイティブも気づいていないことがほとんどです。
日本語の「ん」の発音にたくさんの音があることを日本人が知らないのと同じですね。
なので、厳密に [ d ] か [ ɾ ] かと特定できる音では無いので、そこまで厳密に発音しなくても大丈夫ですよ。
発音のコツは、舌先を上あごの前の方で軽くはじる感じです(上前歯の後ろあたり→適当でいい)。
では「フラップ T」について、もう一度まとめます。
フラップ Tとは?
[ t ] の発音をするときに省エネの目的で、省略した音声( [ d ] もしくは [ ɾ ] に似た音)に変化すること。
「フラップ T」を発音記号で確認
では、「フラップ T」の音声変化を発音記号で見てみます。こんなふうに変化するんですよー。
単語 | 元の発音 | フラップ T |
---|---|---|
water | wɔ́ːtəɹ | wɔ́ːdəɹ wɔ́ːɾəɹ |
better | bétəɹ | bédəɹ béɾəɹ |
厳密に [ d ] とも [ ɾ ] とも特定できない(ときと場合で変わる)ので、どちらの国際音声記号を使ってもいいと思います。
ちなみに[ ɹ ] は英語の 「R」の発音の正式な音声記号です。
個人的には破裂音の [ d ] と区別したいので、はじき音である [ ɾ ] の表記が好きです。
[ t ] が「フラップ T」になる条件
では、今度は [ t ] の発音が省エネになって「フラップ T」になるのはどういう条件のときでしょうか?
そう。じつは、すべての [ t ] が省エネされるわけではないんです。
[ t ] の音声が母音に挟まれているとき
この「フラップ T」という現象ですが、「2つの母音」にはさまれるという条件が必要です。
2つの母音に挟まれた「t」
- water(水)
- meeting (ミーティング)
- later (あとで)
- eating (食べている)
- Peter (名前: ピーター)
ね? 母音に挟まれているでしょ?
スペルではなく「発音」が重要
ほかにも、下記のような単語もフラップ Tに変化します。
フラップ Tは発音が重要
- better(〜より良い)
- daughter (娘)
あれ? なんかスペルが?
……と思われたかもしれませんが、大丈夫です。
「better」はスペルで見ると2つの「 t 」がありますが、発音としては1つの [ t ] なので、問題ありません。
下側の「daughter」は発音で見ると [ dɔ́ːtəɹ ] となり、ちゃんと2つの母音に挟まれているんですね。「gh」は発音しないので。
つまり、「フラップ T」になるかどうかは、スペルではなく本当の発音が重要だということです。
文章を繋いで発音したときにもフラップ Tになる
この現象ですが、英文の「スペース」を取っ払って読んで、単語同士の発音が繋がったときにも生じます。
発音がつながる例
- get up(起きる)
- Shut up(黙れ!)
- Check it out! (聞いてくれ!)
- What are you doing? (何してんの?)
- Let it go(そのままにしておきなよ)
- Go to school !(学校に行きなさい!)
「get up」だと、2つの単語の発音が合体(リンキング)して「getup」になります。
単語レベルでは語尾に来ていた「get」の「 t 」が、文になると母音に挟まれましたね!
「get up」が「ゲラップ」に聞こえるのはこんな理由だったんですね!
「Shut up!」も「Check it out!」も日本語で「シャラップ!」「チェケラ!」みたいに言いますが同じです。
この「ラ」も [ t ] がフラップ Tになることをちゃんと反映させていたんですね!
「R音性母音(R-colored vowel)」のあと
[ t ] の前後が母音にはさまれると「フラップ T」になると既述しました。
その [ t ] の前にくる母音が「R音性母音(R-colored vowel)」の場合でも同じです。
「R音性母音」というのは、アメリカ英語独自のねばっこく伸ばして発音する母音のことです。
たとえば、こんな発音のものです。
こちらの5つを順番に発音していますが、母音に[ r ]の発音がくっついた音声ですね。
- ɑɹ
- əɹ
- ɛəɹ
- ɔɹ
- ɪəɹ
粘っこいでしょ(笑)。
ということで、今度は「R音性母音」が「 t 」の前にきた単語を3つ読みます。
- party
- dirty
- imported
それぞれ「 t 」が「ら行」もしくは「 d 」の発音のように聞こえますよね。
「パーティー」をおどけて「パーリー」と言う日本人がいますが、合ってるんですね!
母音+ [ tl ]
そして、母音の後ろの [ t ] の、さらに後ろに [ l ] が来て、[ tl ] という発音になるときの [ t ] もフラップ Tになります。
説明がややこしいので例で見てください!
母音+[ tl ] の単語
- little(少し)
- battle(戦闘)
- kettle(やかん)
- bottle(ボトル)
「little」をカタカナ英語でも「リル」と言ったりしますよね?
ちなみに、単語の最後に来る [ l ] の発音は、ダークLという音声変化になります。
[ d ] の発音も「フラップ D」になる
今回紹介している「フラップ T」という音声変化ですが、 [ d ] の発音に適応される場合があります。
たとえば、「ladder(はしご)」の [ d ] の発音も「フラップ T(というかフラップD ?)」になります。
そのため、こちらの2つの発音は全く同じになってしまいますね。
単語(意味) | 発音記号 |
---|---|
matter(問題) | mǽdəɹ もしくは [ mǽɾəɹ ] |
madder(あかね色) |
2つ以上の単語でも「フラップ D」になる
「フラップ T」と同じで、「Good evening」のように2つの単語もリンキングして「フラップ D」になります。
フラップ Dになる
Goodevening
ほら、上の例のように、「Good」と「evening」がつながると「 d 」が母音に挟まれますよね。
「フラップ D」は「フラップ T」と同じ条件で音声変化を起こします。
「フラップ T」にならない条件
さて、上では「フラップ T」になる条件を紹介しましたが、今度はならない条件についてです。
[ t ] にアクセントがくる場合
実は、アクセントが [ t ] にくるときは「フラップ T」になりません。
こういう単語がそうですね。
[ t ] にアクセントが来る例
- hotél
- seventéen
- photógraphy
- atténd
前述しましたが、「フラップ T」という音声変化は、省エネのために起こります。
アクセントのくるところは強く言わなければならないため、省エネをしてはいけないんですよね。なので、これも道理に合っていますね。
「アクセントが [ t ] に来るとき」と書きましたが、厳密には [ t ] の直後の母音にくるときです。
母音+ [ tən ] が来る場合
そして、母音+ [ tən ] が来る場合も「フラップ T」は起こりません([ ə ] は「あいまい母音: シュワー」)。
こちらも例で見たほうが早いですね。
母音+ [ tən ] の例
- Manhattan(マンハッタン: ニューヨークの区の1つ)
- tighten(締め付ける)
- written(「write: 書く」の過去分詞形)
こちらは「ストップT(Stop T)」という音声変化が起こり、 [ t ] の音声が消失します。
まとめ
さて、今回はアメリカ英語の「フラップ T(Flap T)」という音声変化を紹介しました。
「water」が「ワラー」のように聞こえたり、「party」が「パーリー」に聞こえたりするのは空耳ではなかったんです(笑)。
ただ、この「フラップ T」は、アメリカ英語だけです。イギリス英語では起こりませんし、無理して使う必要もありません。
慣れると自然に出てしまいますが、聞いてわかるレベルでオッケーですよ!
発音をよくするために知っておきたい「リンキング」についてもぜひご覧ください。