今回は発音記号である[ ŋ ]の発音(軟口蓋鼻音)についてです。
日本語では、鼻濁音あの「が行」の子音ですが、発音は同じなのでしょうか?
この記事では[ ŋ ]の発音の仕方、[ ŋ ]の発音のコツなどをくわしく解説します。
目次
[ ŋ ]はどんな音声?
まずは、発音記号の[ ŋ ]の音声を聞いてみましょう。
次のような発音になります。
「ングッ」という音に聞こえますよね。
[ ŋ ]の発音の仕方
では、[ ŋ ]を発音するときの口の中の「構え」はどうなっているのでしょうか?
[ ŋ ]は、こちらの図のような構えで発音されます。
[ ŋ ]の発音をする手順をまとめると次のとおりです。
[ ŋ ]の発音をする手順
- 舌の根本あたりと「軟口蓋(上あごの奥にある柔らかい部分)」をきっちりと合わせる
- 口から出るはずの息をせき止め、鼻から「ンー」という音を出しながら……
- 軟口蓋にくっつけていた舌の根本を離し「ングッ」という音を出す
日本語の「あいうえお表」には出てこない発音ですが、実は日常会話でもよく出てきます(くわしくは後述しています)。
[ ŋ ]は、専門的には「軟口蓋鼻音」という発音です。
さらに詳しく紹介します。
【のどの震え】[ ŋ ]の発音は「有声音」
[ ŋ ]の発音は有声音です。
そのため、のどの震えがあります。
声帯振動(のどの震え)についてはこちらをどうぞ。
【発音される場所】[ ŋ ]の発音は「軟口蓋」で作られる
[ ŋ ]を発音するときは、上あごの奥のほうにある「軟口蓋」で作られます。
そのため、「軟口蓋音」と呼ばれます。
では具体的にどの場所を使うのか、「舌」と「上あご」に分けて紹介しましょう。
「舌」のどこを使う?
[ ŋ ]の発音をするときは舌の奥のほう(後舌)を使います。
「上あご」のどこを使う?
後舌を「軟口蓋」と呼ばれる部分にくっつけて[ ŋ ]は発音されます。
「口蓋」とは「上あご」のことで、軟口蓋はその字のとおり「軟らかい部分」のことです。
ちなみに、上あごの真ん中のほうは硬くて「硬口蓋」と呼ばれます。
口の中の名称についてはこちらをどうぞ。
【発音する方法】[ ŋ ]の発音は鼻音
[ ŋ ]の発音は、本来は口から出るはずだった音を鼻から出す「鼻音」と呼ばれる音です。
こちらが実際の[ ŋ ]の発音です。
口を開いた瞬間に「ングッ」というような音に聞こえますよね。
鼻音についてはこちらをどうぞ。
【ポイント】[ ŋ ]を発音するときのコツ
では[ ŋ ]を発音するときのコツを紹介します。
まずは「ンー」と発音
[ ŋ ]を発音するときのコツは、舌の根本あたりを軟口蓋に押し付けて「ンー」と発音することです。
こちらの音声のような音です。
口のなかの構えはこちらをご確認ください。
舌の根元を離すと「ングッ」という音に
舌の根元を上あごから離したときに、次の音声のような「ングッ」という音になります。
舌の位置は、「か(ka)」を発音するときと同じなので、それをイメージするとやりやすいですね。
発音を確認したいとき
発音を確認したいときの裏技があります。
日本語で「キング」と発音するときの「ん」の発音が[ ŋ ]です(後述しています)。
そこで、「キング」と発音しようとして、「グ」を発音せずに「ン」で止めると、[ ŋ ]の発音になりますよ。
【確認】[ ŋ ]の発音の注意点
[ ŋ ]の発音で気をつけたいのは
「ング」と発音しないことです。
「ング」と発音したくなる理由
ではなぜ、[ ŋ ]を「ング」と発音したくなるのでしょうか?
多くの場合、英語で[ ŋ ]の発音が出てくるのが「king」や「running」のように「ing」がつく場合だからです。
カタカナ英語で「king」は「キング」、「running」は「ランニング」と書くため、「ng」の発音を「ング」と言ってしまうのです。
「king」は「キング」と発音しない?
でも、「king」の発音記号は[ kíŋ ]なので、英語で読むときは
「キン」と読んでください。
舌の根元を「軟口蓋」にくっつけて発音する「ン」です。
[ ŋ ]の発音は1つの発音なのに、表記では「 ng 」というように2文字で表現されるのがややこしい!
大切なので何度も繰り返し言いますが、「ng」と書かれていても発音記号は[ ŋ ]で1つの音声です!
「ン+グ」みたいに2つの発音を言うのではありませんよ。
英語でも「キング」のように聞こえるかもしれませんが、軟口蓋にくっつけていた舌の根本を離したときに出る音です。
決して「グ」と言っているわけではありません。
「king」の発音についてはこちらも参考になります。
日本語で[ ŋ ]が使われる例
見慣れない[ ŋ ]という発音記号ですが、実は日本語を話すときにも日常的に使われています。
とは言え、ほとんどの人はこの発音を意識したことがないと思うので、詳しく説明しますね。
鼻濁音の「か゜行」の子音
日本語には2種類の「が行」がある……という話を知っていますか?
そして言語学では「が」と「か゜」のように区別して表記をすることがある……と聞いても、こんな反応をされるのが普通でしょう。
はぁ? 突然なに言ってんの?
鼻濁音の「か゜行」とは?
とりあえず、こちらの音声を聞いてみてください。
「これがりんごです」を、ふつうの「が」と鼻濁音の「か゜」で言っています。以下の順番に2回どおり言いましたがわかりましたか?
2種類の「が」
- これが りんごです
(ふつうの「が行」で発音) - これか゜りんこ゜です
(鼻濁音の「か゜行」で発音)
もし「そんなバカな!」とか「意味がわからない……」のように思っても大丈夫です。
なぜなら、鼻濁音の「か゜行」は、今の日本語ではどんどん使う人が減っている発音だからです。
鼻濁音の「か゜行」の音声
そして、その鼻濁音の「か゜行」の子音が[ ŋ ]の発音なのです。鼻濁音で「が行」を発音したのがこちらです。
発音記号を表記するとこのようになります。
か゜ | [ ŋa ] |
---|---|
き゜ | [ ŋi ] |
く゜ | [ ŋɯ ] |
け゜ | [ ŋe ] |
こ゜ | [ ŋo ] |
「う段」を[ u ]ではなく、[ ɯ ]と書いているのは、こちらのほうが日本語の「う」の発音に近いからです(参考: 日本語にある2種類の「う」について)。
この「か゜行」は、とくに関西ではほぼ絶滅していて、わたしも言語学を専門的に勉強する28歳まで存在すら知りませんでした。
もっと詳しく鼻濁音の「が」については以下の記事をご参考に。
日本語の「ん」の発音でも[ ŋ ]が使われる
[ ŋ ]の発音は、日本語の鼻濁音の「か゜行」の子音ですが、ほかにも使われることがあります。
それが、「ん」の発音です。日本語の「ん」には、うしろにくる音声によって音が変わるという特徴があります。
たとえば、次のように「か行」「が行」「か゜行」の前に来る「ん」の発音は[ ŋ ]になります。
「ん」が[ ŋ ]になる例
厳密に言うと、「ん」の後ろにつづく音が軟口蓋音である[ k ][ g ][ ŋ ]の場合、「ん」は[ ŋ ]で発音されます。
くわしくは日本語の「ん」の発音についてをご覧ください。
まとめ
今回は日本語にも英語にもある発音[ ŋ ]について紹介しました。
多くの言語にある発音で、かんたんに発音できるという特徴があります。
ただし、「子音だけ発音する」ということ、そして日本語の「ん」とは違うということに気をつけてくださいね。
こちらは関連記事です。