「英語の発音って難しい……」と思っている方も多いと思いますが、なぜ難しいのでしょうか?
それは口の中の地図がないからです。今回は口の中のイラストとともに英語にある子音を一覧としてまとめました。
両唇音
両唇(上の唇 + 舌の唇)を使って発音する音声を「両唇音」と呼びます。
両唇音としては、英語には「両唇破裂音」「両唇鼻音」が存在します。
日本語には両唇摩擦音の「ɸ(『ふ』の子音)」がありますが、英語にはありません。
両唇破裂音[ p ][ b ]
両唇をくっつけて、勢いよく「破裂」させるようにする「両唇破裂音」です(参考: 破裂音とは?)。
無声両唇破裂音[ p ]
両唇破裂音で、のどの振動を伴わない音声を「無声両唇破裂音」と呼びます。
日本語では「ぱ行」の子音で、[ p ]の発音のことですね。
「プッ」のように言えば簡単に発音できると思いますが、「母音」を付けないようにご注意ください(参考: 子音だけを発音するとは?)。
有声両唇破裂音[ b ]
両唇破裂音で、のどを振動させる音声を「有声両唇破裂音」と呼びます。
日本語では「ば行」の子音で、[ b ]の発音です。これも簡単にできますね。
表記的にややこしいのですが、実は「は行」の濁音が「ば行」ではなく、「ぱ行」の濁音が「ば行」です。
両唇鼻音[ m ]
上の唇と下の唇をあわせ、口から出す息をせき止め、鼻から出す音声を「両唇鼻音」と呼びます(参考: 鼻音とは?)。
日本語の「ま行」の子音です。
歯音
今度は唇の後ろにまずある「歯」で作る音声です。「歯音」と呼ばれます。
これは日本語には存在しない音声ですね。英語だと、「 th 」の発音がこちらにあたります。
歯摩擦音[ θ ][ ð ]
上の前歯の後ろに舌尖(舌の先)をくっつけてスキマ音を出すと「スー」みたいな音が出ます。
この音を「歯摩擦音」と呼びます。
上の前歯と下の前歯のスキマに舌を軽く押し入れ、スキマ音を出しても同じ音になります。
無声歯摩擦音[ θ ]
歯摩擦音で、のどの振動を伴わない音声を「無声歯摩擦音」と呼びます。
これは英語の「 th 」の発音のことです。
有声歯摩擦音[ ð ]
歯摩擦音で、のどを振動させる音声を「有声歯摩擦音」と呼びます。
こちらは「 th 」の濁った音で使われます。
たとえば「the」や「that」などの「 th 」の音ですね。
唇歯音
そして、「唇歯音(下唇と上の前歯を使って発音)です。
これは、日本語にはまったく存在しない発音方法で、英語では「 f 」と「 v 」の発音がそうです。
唇歯摩擦音[ f ][ v ]
上の前歯を下唇に当てようとして、触れるか触れないかぐらいのスキマを空け、その間から摩擦したような音を出す音声を「唇歯摩擦音」と呼びます。
無声唇歯摩擦音[ f ]
唇歯摩擦音で、のどの振動をともなわないものを「無声唇歯摩擦音」と呼びます。
英語の[ f ]の発音ですね! 日本語にはない音なので初心者が苦戦する発音の1つです。
有声唇歯摩擦音[ v ]
唇歯摩擦音で、のどを振動させる音声を「有声唇歯摩擦音」と呼びます。
英語の[ v ]の発音ですね!
日本語の「ヴ」は英語の「 v 」とはまったく異なるのでご注意を。
歯唇鼻音[ ɱ ]
そして、今度は「歯唇鼻音」を紹介しましょう。
上の歯を下唇に当て、口から出る息を完全に止め、その息を鼻から出すときに出す音です。
この[ ɱ ]の発音ですが、はっきり言って[ m ]の発音と区別は付きません。
そもそも、この[ ɱ ]という発音は、英語の発音として一応、存在はしますが、意識しているネイティブもほぼいません(日本語の鼻濁音の「か゜」みたいな存在)。
たとえば「symphony[ sɪɱfəni ]」という単語の中でかろうじて出てくるレベルです。
本来は[ m ]と発音すべきところが、「 m 」のあとに続く「 ph 」、つまり[ f ]の発音(上の前歯を下唇に当てて発音)の構えに引きづられたため、「結果として存在してしまう発音」 です。
一応載せていますが、とくに覚えておく必要はありませんよー(笑)。
歯茎音
そして、言語を発するときに一番使われることの多い「歯茎」を使った音声です。「歯茎」というのはこちらの場所です。
口の内側から見た、歯の根元ですね。
一般的に「歯茎」と書くと「歯茎」と呼ばれることがふつうだと思いますが、音声学では「しけい」と読みます。
わたしはよく「歯の根元あたり」という表現で説明しています。
歯茎摩擦音[ s ][ z ]
歯茎に舌の前のほうがくっついているかくっついていないかのレベルのスキマを開け、スキマ音(摩擦音)を起こす音声を歯茎摩擦音と呼びます。
ポイントは「舌尖(ほんとうの舌の先)」ではないということです。
無声歯茎摩擦音[ s ]
歯茎摩擦音で、のどの振動を伴わない音声を「無声歯茎摩擦音」と呼びます。
日本語の「さ行」の子音で、[ s ]の発音のことです。
舌尖ではなく、少し後ろを歯茎に近づけているのが特徴です。
ここで舌尖を近づけて発音すると、「歯音」の[ θ ]に近い音声になってしまいます。
有声歯茎摩擦音[ z ]
歯茎摩擦音で、のどを振動させる音声を「有声歯茎摩擦音」と呼びます。
こちらは日本語での「ざ行」、つまり英語の[ z ]の発音ですね。
歯茎破裂音[ t ][ d ]
今度は、歯茎に舌先をしっかりとくっつけて、離した瞬間に「破裂するような音」を作る「歯茎破裂音」です。
無声歯茎破裂音[ t ]
歯茎破裂音で、のどの振動をともなわないものを「無声歯茎破裂音」と呼びます。
これは日本語の「た行」の子音で、[ t ]の発音です。
有声歯茎破裂音[ d ]
歯茎破裂音で、のどを振動させる音声を「有声歯茎破裂音」と呼びます。
こちらは「だ行」の[ d ]の発音です。
歯茎破擦音[ t͡s ][ d͡z ]
歯茎に舌の前のほうをくっつけて、破裂させたあとに摩擦音に移行する発音を「歯茎破擦音」と呼びます。
「破擦音」というのは上で見た「破裂音」と「摩擦音」を同時にするからそう呼ばれます。
無声歯茎破擦音[ t͡s ]
歯茎破擦音で、のどの振動をともなわないものを「無声歯茎破擦音」と呼びます。
日本語だと「つみき[ t͡sumiki ]」のように語頭に来ますが、英語では来ません。
よく語尾にくる「 s 」の発音として出てきます。たとえばネコの複数形である「cat͡s」の最後の部分です。
有声歯茎破擦音[ d͡z ]
歯茎破擦音で、のどを振動させる音声を「有声歯茎破擦音」と呼びます。
日本語では語頭に来る「ざ行」の音が[ d͡z ]の子音になります。
英語では「card」の複数形である「cards」の「 ds 」の部分がこの発音になります。「kids」「reads」のように「 d 」のあとに「 s 」がつくときに発音されることが多いです。
歯茎鼻音[ n ]
歯茎に舌先をくっつけて、口から出る音声を完全に止め、鼻から音声を出すものを「歯茎鼻音」と呼びます。
日本語の「な行」の子音、つまり[ n ]の発音になります。
発音記号[ n ]についてさらに詳しく知りたい場合はこちらの記事をご覧ください。
「かんどう(感動)」や「ほんとう(本当)」の「ん」の発音も[ n ]になりますよ。
歯茎側面接近音[ l ]
歯茎に舌をしっかりとくっつけて、舌の両側面から唸り声を通す発音を「歯茎側面接近音」と呼びます。
これは日本語には存在できない音で、英語の[ l ]の発音です。
舌先ですが、上前歯の裏、もしくは上前歯と下前歯の間にはさんで発音しても同じ発音になります。
発音記号[ l ]についてさらに詳しく知りたい場合はこちらの記事をご覧ください。
歯茎はじき音[ ɾ ]
歯茎に一瞬だけ舌先をなでるようにはじく発音を「歯茎はじき音」と呼びます。
日本語の「ら行」の子音の音で、英語では基本的に使われません。
ですが、英語でもたまに「Flap T」という音声変化で似たような音が使われることがあります。
後部歯茎音
そしてお次は「後部歯茎(もしくは硬口蓋歯茎)」を使った音声を紹介します。
後部歯茎は、名前のとおり「歯茎」の後ろあたりの部分を指します。
後部歯茎摩擦音[ ʃ ][ ʒ ]
英語にあるのは「後部歯茎摩擦音」です。もはや、長すぎですね(笑)。
後部歯茎に舌の「前舌(舌の中あたり)」を近づけ、上あごにくっつくかくっつかないかのスキマを空け、その間から「シュー」という摩擦する音を生じさせる発音です。
歯を閉じ、口を縦に開くように「シュ」のように言うと発音しやすいです。
無声後部歯茎摩擦音[ ʃ ]
後部歯茎摩擦音で、のどの振動を伴わない音声を「無声後部歯茎摩擦音(= 無声硬口蓋歯茎摩擦音)」と呼びます。
英語では「shine」「shy」などの「 sh 」の部分が[ ʃ ]の発音です。
日本語の「し[ ɕi ]」の発音にならないようにご注意ください。
有声後部歯茎摩擦音[ ʒ ]
後部歯茎摩擦音で、のどを振動させる音声を「有声後部歯茎摩擦音(= 有声硬口蓋歯茎摩擦音)」と呼びます。
英語だと「vision」の「 s 」の部分が[ ʒ ]の発音です。日本語の「じ[ ʑi ]」の発音にならないようにご注意を。
後部歯茎破擦音[ t͡ʃ ][ d͡ʒ ]
後部歯茎に前舌(舌の中あたり)をくっつけて、破裂させたあとに摩擦音に移行する発音を「後部歯茎破擦音」と呼びます。
無声後部歯茎破擦音[ t͡ʃ ]
後部歯茎破擦音で、のどの振動をともなわないものを「無声後部歯茎破擦音(=無声硬口蓋歯茎破擦音)」と呼びます。
英語では「church」などの「 ch 」の発音が[ t͡ʃ ]です。日本語の「ち[ t͡ɕi ]」の発音にならないようにご注意を。
有声後部歯茎破擦音[ d͡ʒ ]
後部歯茎破擦音で、のどを振動させる音声を「有声後部歯茎破擦音(=有声硬口蓋歯茎破擦音)」と呼びます。
英語の「bridge」の「 dg 」の発音が[ d͡ʒ ]の発音です。日本語の語頭の「じ[ d͡ʑi ]」の発音と混同しないようにお気をつけを。
後部歯茎接近音[ ɹ ]
前舌を後部歯茎にまで接近させ、後部歯茎と舌との間から唸り声を出す発音を「後部歯茎接近音」と呼びます。
前述した[ l ]は「側面接近音」でしたね。似ていますが、字面が違うということは発音の仕方もぜんぜん違います。
この音声は、英語の「 R 」の発音ですね。辞書では「 r 」と書かれることがほとんどですが。
ちなみに、「後部」歯茎接近音の本来の表記は[ ɹ̠ ] ですが、「歯茎接近音」を表す[ ɹ ]で統一しています。
発音記号[ ɹ ]についてさらに詳しく知りたい場合はこちらの記事をご覧ください。
硬口蓋音
口の中の真ん中あたりの固い部分を「硬口蓋」と呼びます。
硬口蓋接近音[ j ]
前舌(舌の中あたり)を硬口蓋に接近させ、その間から声を出す音声を「硬口蓋接近音」と呼びます。
小難しく聞こえますが、これは日本語の「や行」の子音と同じですので大丈夫ですね。
発音記号では[ j ]と書きます。ちょっとややこしいですけど。
無声硬口蓋摩擦音[ ç ]
前舌(舌の中あたり)を硬口蓋に接近させ、くっついているかくっついていないかのレベルのスキマを開け、スキマ音(摩擦音)を起こす音声を硬口蓋摩擦音と呼びます。
日本語の「ひ」の子音で、英語ではごくごくまれに使われます。
たとえば「heel[ çiːɫ ]」のように、[ h ]のあとに[ i ]の発音がきたときだけ発生しますが、「he'll[ hiːɫ ]」との発音の区別が必要です。
軟口蓋音
そして、「軟口蓋」という部分を使った発音です。
軟口蓋というのは、上顎の後ろの方の「柔らかい部分」のことです。
「え? こんな部分使うの??」と一瞬思いますが、日本語でも使われています。
「か行」「が行」などがそうですね。
軟口蓋破裂音[ k ][ g ]
舌の根本あたりを軟口蓋に一瞬当て、勢い良く破裂させるように離すと同時に「クッ」と出す音を「軟口蓋破裂音」と呼びます。
無声軟口蓋破裂音[ k ]
軟口蓋破裂音で、のどの振動を伴わない音声を「無声軟口蓋破裂音」と呼びます。
日本語の「か行」の発音、つまり[ k ]の発音のことです。
有声軟口蓋破裂音[ ɡ ]
軟口蓋破裂音で、のどを振動させる音声を「有声軟口蓋破裂音」と呼びます。
日本語の「が行」の発音、つまり[ g ]の発音です。
軟口蓋鼻音[ ŋ ]
そして「軟口蓋鼻音」です。
舌の根元を、軟口蓋に当てて口から出す息を完全にふさぎ、口から出るはずだった息を鼻から出して発音するのが[ ŋ ]の発音になります。
「king」の「ng」の発音がそうです。「 n 」と「 g 」のように2つのアルファベットで書きますが、[ ŋ ]というふうに1つの音で発音します。
発音記号[ ŋ ]についてさらに詳しく知りたい場合はこちらの記事をご覧ください。
軟口蓋歯茎側面接近音[ ɫ ]
歯茎に舌をつけたまま、軟口蓋に舌の根本を接近させて発音する「軟口蓋歯茎側面接近音」です。
「ウ」のような発音ですが違います。英語では「ダークL(暗い『 L 』の発音)」と呼ばれ、「people」とか「apple」のように文末に「 l 」が来るときの音声です。
ほら、「people」のことを「ピープゥ」みたいに言いますよね? あの「ゥ」の発音です。
舌先は歯茎から離れていてもいい
上で見たような発音方法なのですが、「舌を歯茎につけたまま」というのはやらない場合も多いです。
こちらのように舌先は歯茎から離し、舌の後部を軟口蓋に近づけるだけでも同じような発音になります。
詳しくはこちらを。
両唇軟口蓋接近音[ w ][ ʍ ]
そして、「両唇軟口蓋接近音」と呼ばれる子音です。
有声両唇軟口蓋接近音[ w ]
「有声両唇軟口蓋接近音」の[ w ]です。
舌の根元を軟口蓋に接近させ、通路を狭くさせて、さらに唇を丸めて(接近させて)発音します。
日本語の「わ」を唇を丸めて言えばこの子音になります。つまり、日本語の「わ」は唇を丸めないため、べつの発音になります。
無声両唇軟口蓋接近音[ ʍ ]
先ほどの[ w ]の発音が無声化した「無声両唇軟口蓋接近音」」です。
記号では[ w ]をひっくり返した[ ʍ ]の発音です。
アメリカ英語で「where」などの「wh」の発音がそうですね。ただし、現在は[ w ]で発音する人のほうが多いですが。
辞書には[ hw ]のように書かれていると思いますが、[ ʍ ]が本来の発音記号です。
「無声両唇軟口蓋摩擦音」と書くことがありますが、口の中の構造としては「無声両唇軟口蓋接近音」が正しいです。
声門音
そして「声門」を使う子音「声門音」の紹介です。声門というのは、のど ですね。
声門摩擦音[ h ][ ɦ ]
声門(のど)で空気を摩擦させて音を出す音を「声門摩擦音」と呼びます。
無声声門摩擦音[ h ]
声門摩擦音で、のどの震えをともなわないものが「無声声門摩擦音」です。
実は日本語の「は行」の「は」「へ」「ほ」の子音がそうです。
喉が渇いた犬が「ハッ……ハッ……ハッ」と言っている感じの音ですね。
有声声門摩擦音[ ɦ ]
声門摩擦音で、のどの震えをともなう音が「有声声門摩擦音」です。
英語では通常はこの発音は出てこないので覚える必要はありません。
「behind」や「ahead」の[ h ]の音が濁って[ ɦ ]になることもあるため、英語話者もこの音を知らない人がほとんどでしょう。
ちなみに、日本語でも「ごはん」という発音を適当に言ったときの「は」の音が無声音になって[ ɦ ]の発音になることがあります……が、こんなこと日本人も知りませんよね(笑)。
声門破裂音[ ʔ ]
そして、声門破裂音です。
声門(のど)を一瞬閉じるため、「声門閉鎖音」とも呼ばれます。
日本語の「促音(小さな『っ』)のような発音ですね。
英語にはほぼ存在しないのですが、間投詞の「uh-oh(アッオゥ)」「uh-uh(アッア)」などでは使われます。
uh-oh | ʌ́ʔəʊ |
---|---|
uh-uh | ʌ́ʔʌ |
ちなみに、のどの構造上で「無声音」しかつくれないため、「声門破裂音」=「無声声門破裂音」です。
まとめ
さて、今回は英語の子音の発音をまとめました。
おそらくまだ抜けはありそうですが、気づいたときにまた追記しておきます!