言語の子音を作るときには、大きく分けて次の3つの要素があります。
子音を作る3要素
- 調音点(発音される場所)
- 調音法(発音する方法)
- 声帯振動(のどの震え)
このなかの1つが調音法、つまり発音する方法です。
今回は調音法とはなにか? と、調音法で分類した音声の種類を図解付きで詳しく紹介します。
調音法とは?
「調音法」とは、子音の発音が「口のなかでどのような方法で発音されるか?」を示す言葉です。
小難しく言いましたが「音を作る方法」のことですね!
たとえば、口のなかでためた空気を勢いよく吹き出す音を「破裂音」と呼びます。
日本語の「ぱ行」「た行」などが破裂音に該当します。
「パ」や「タ」を発音するときに、口のなかで破裂させているように感じませんか?
ほかには、「摩擦音」という音声もあります。
唇や舌を使って一部を狭め「スキマ音」を作る音で、「さ行」「は行」などが該当します。
ちなみに、本サイトでは「調音法」という言葉はなるべく使わず、「発音する方法」という言葉で統一しています。
口のなかの調音器官の名称についてはこちらの記事もどうぞ。
調音法による音声の種類
では、調音法がなにを示す言葉かの説明が終わったので、今度は「調音法」の種類を紹介しましょう。
破裂音
まず紹介するのは、「破裂」させるような音を作る破裂音です。
破裂音が作られる手順をまとめると次のようになります。
破裂音の作られ方
- 口のなかで閉鎖が作られる
- 空気の流れが止まり、口のなかの気圧が高まる
- 閉鎖がほどかれ「破裂」のような音が出る
日本語と英語で「破裂音」に該当する音声はこちらになります。
日本語 | 英語 | |
---|---|---|
両唇音 | [ p ] / [ b ] | [ p ] / [ b ] |
歯音 | − | − |
唇歯音 | − | − |
歯茎音 | [ t ] / [ d ] | [ t ] / [ d ] |
後部歯茎音 | − | − |
そり舌音 | − | − |
硬口蓋音 | − | − |
歯茎硬口蓋音 | − | − |
軟口蓋音 | [ k ] / [ g ] | [ k ] / [ g ] |
口蓋垂音 | − | − |
咽頭音 | − | − |
声門音 | − | − |
日本語でも英語でも、完全に一致していますね。
鼻音
本来は音声は口から出ますが、鼻から出す発音があります。
それが鼻音と呼ばれる発音です。
鼻音の作られ方
- 口のなかで閉鎖が作られる
- 空気の流れが止まり、鼻から音が出る(「ん」のような音)
- 口のなかの閉鎖をほどくと「破裂」のような音が出る
先述した「破裂音」との違いは、「音を鼻から出す」ということになります。
日本語と英語で「鼻音」に該当する音声はこちらです。
日本語 | 英語 | |
---|---|---|
両唇音 | [ m ] | [ m ] |
歯音 | − | − |
唇歯音 | − | [ ɱ ]【※1】 |
歯茎音 | [ n ] | [ n ] |
後部歯茎音 | − | − |
そり舌音 | − | − |
硬口蓋音 | [ ɲ ]【※2】 | − |
歯茎硬口蓋音 | − | − |
軟口蓋音 | [ ŋ ] 【※3】 | [ ŋ ] |
口蓋垂音 | [ N ]【※4】 | − |
咽頭音 | − | − |
声門音 | − | − |
【※1】英語にある [ ɱ ] は [ f ] もしくは、[ v ] の前にくる [ n ] や [ m ] の発音が変化するときだけ現れます(例: information)。
【※2】[ ɲ ] は「に」の子音(「にゃ行」の子音)です。
【※3】[ ŋ ] は鼻濁音の「が」の子音になります。
【※4】日本語にある [ N ] は、通常の「ん」の発音です。
ふるえ音
イタリア語やスペイン語にある「巻き舌のR」をふるえ音と呼びます。
「巻き舌のR」というのは、舌をふるえさせ、瞬間的に何度も上あごにくっつける発音ですよね。
日本語と英語で「ふるえ音」に該当する音声はこちらになります。
日本語 | 英語 | |
---|---|---|
両唇音 | − | − |
歯音 | − | − |
唇歯音 | − | − |
歯茎音 | − | − |
後部歯茎音 | − | − |
そり舌音 | − | − |
硬口蓋音 | − | − |
歯茎硬口蓋音 | − | − |
軟口蓋音 | − | − |
口蓋垂音 | − | − |
咽頭音 | − | − |
声門音 | − | − |
はい、日本語にも英語にも存在しません(笑)。
あえて言えば、日本語では相手を威嚇するときに「オルァ!」みたいに使う人や、個性を出すためにあえて使うシンガーなどはいます。
はじき音
舌の先を上あごに一瞬だけぶつけるようにする音声を「はじき音」と呼びます。
この音声では、瞬間的な閉鎖が1回だけ作られます。
日本語の「ら行」を発音してみるとわかりやすいと思います。
日本語と英語で「はじき音」に該当する音声はこちらになります。
日本語 | 英語 | |
---|---|---|
両唇音 | − | − |
歯音 | − | − |
唇歯音 | − | − |
歯茎音 | [ ɾ ] 【※1】 | [ ɾ ]【※2】 |
後部歯茎音 | [ ɾ ]【※3】 | [ ɾ ]【※3】 |
そり舌音 | − | [ ɽ ]【※4】 |
硬口蓋音 | − | − |
歯茎硬口蓋音 | − | − |
軟口蓋音 | − | − |
口蓋垂音 | − | − |
咽頭音 | − | − |
声門音 | − | − |
【※1】[ ɾ ] は、日本語の「ら行」の子音です。
【※2】英語で使われる [ ɾ ] はアメリカ英語でのみ使われるフラップTという音声現象で使われる音声です。
【※3】歯茎音である [ ɾ ] は、しばしば「後部歯茎」で発音されます。
本来、「後部歯茎」で使われる [ ɾ ] は [ ɾ ] と書くのが正式ですが、本サイトでは [ ɾ ] で統一しています。
【※4】アメリカ英語で、「そり舌のR」のあとに発生するフラップTは「そり舌はじき音」の [ ɽ ] で発音されます。
摩擦音
口のなかの一部を狭め、スキマ音を作る音声を「摩擦音」と呼びます。
摩擦音はもっともポピュラーな調音法なので、たくさんの子音があります。
日本語と英語で「摩擦音」に該当する音声はこちらです。
日本語 | 英語 | |
---|---|---|
両唇音 | [ ɸ ] / [ β ]【※1】 | − |
歯音 | − | [ θ ] / [ ð ] |
唇歯音 | − | [ f ] / [ v ] |
歯茎音 | [ s ] / [ z ] | [ s ] / [ z ] |
後部歯茎音 | − | [ ʃ ] / [ ʒ ] |
そり舌音 | − | − |
硬口蓋音 | [ ç ]【※2】 | [ ç ]【※2】 |
歯茎硬口蓋音 | [ ɕ ]【※3】 | − |
軟口蓋音 | [ ɣ ]【※4】 | − |
口蓋垂音 | − | − |
咽頭音 | − | − |
声門音 | [ h ] / [ ɦ ]【※5】 | [ h ] |
【※1】日本語にある [ ɸ ] は「ふ」の発音の子音(「ふぁ行」の子音)で、それ以外には使われません。
[ ɸ ] のとなりにある [ β ] は、「ふ」がまれに濁音化するときの子音です(例: ふぶき)。
【※2】日本語、英語の両方に使われる [ ç ] は、日本語では「ひ」の子音(「ひゃ行」の子音)として、英語では「heel」のように「 h + iː 」の発音のときだけ現れます。
【※3】[ ɕ ] は「し」および「しゃ行」の子音です。
【※4】[ ɣ ] は、「くぐり戸」の「ぐ」の発音のように、ごくまれに「ぐ」の発音として現れます。
【※5】「は」「へ」「ほ」の子音である [ h ] ですが、「ご飯」という発音を速くぞんざいに言うと「は」が濁音化し、[ ɦ ] の発音になります。
破擦音
先述した破裂音と摩擦音を同時に作ったような音を「破擦音」と呼びます。
日本語と英語で「破擦音」に該当する音声はこちらになります。
日本語 | 英語 | |
---|---|---|
両唇音 | − | − |
歯音 | − | − |
唇歯音 | − | − |
歯茎音 | [ t͡s ] / [ d͡z ]【※1】 | [ t͡s ] / [ d͡z ]【※2】 |
後部歯茎音 | − | [ t͡ʃ ] / [ d͡ʒ ]【※3】 |
そり舌音 | − | − |
硬口蓋音 | − | − |
歯茎硬口蓋音 | [ t͡ɕ ] / [ d͡ʑ ]【※4】 | − |
軟口蓋音 | − | − |
口蓋垂音 | − | − |
咽頭音 | − | − |
声門音 | − | − |
【※1】[ t͡s ] は「つ」の子音(「つぁ行」の子音)、[ d͡z ] は、「ず(『ずぁ行』子音)」が」文頭にくるときなどに発生する発音です。
【※2】英語の [ t͡s ] は、複数形や三単現の「 s 」がついたときにまれに発生する発音です(例: cats)。
となりにある [ d͡z ] は、「card」が複数形になったときの「cards」のようなときだけ発生する発音です。
【※3】英語の [ t͡ʃ ] は「ch」、[ d͡ʒ ] は「bridge」の「dge」の発音になります。
【※4】日本語の「ち」の子音(「ちゃ行」の子音)が [ t͡ɕ ] 、文頭などにくる「じ(『じゃ行』の子音)」が [ d͡ʑ ] になります。
接近音
舌を上あごに接近させて声を出す発音を接近音と呼びます。
摩擦音のように、接触するほど狭めるのではありません。
日本語と英語で「接近音」に該当する音声はこちらになります。
日本語 | 英語 | |
---|---|---|
両唇音 | − | − |
歯音 | − | − |
唇歯音 | − | − |
歯茎音 | − | [ ɹ ] |
後部歯茎音 | − | [ ɹ ]【※1】 |
そり舌音 | − | [ ɻ ]【※2】 |
硬口蓋音 | [ j ] | [ j ] |
歯茎硬口蓋音 | − | − |
軟口蓋音 | [ ɰ ]【※3】 | [ ʍ ] / [ w ]【※4】 |
口蓋垂音 | − | − |
咽頭音 | − | − |
声門音 | − | − |
【※1】英語の [ ɹ ] は、歯茎より少しうしろの「後部歯茎」で発音されることがほとんどです。
本来、後部歯茎で発音される [ ɹ ] は [ ɹ ] と表記しますが、このサイトでは [ ɹ ] で統一しています。
【※2】アメリカ英語では、「 R 」の発音として「そり舌のR」である [ ɻ ] が使われることがよくあります。
【※3】「接近音」のところにある [ ɰ ] は、日本語の「わ行」の子音になります。
【※4】「 w 」の音声である [ w ] は「円唇軟口蓋接近音」と呼ばれ、同時に唇も丸める発音です。
[ w ] のとなりにある [ ʍ ] は [ w ] が無声化したときの音です(例: where)。
側面接近音
舌先を上あごに強くくっつけ、側面から空気を流す音声を側面接近音と呼びます。
先述した通常の「接近音」は、空気を口の真ん中から出しますが、側面接近音は真ん中が舌で封鎖されています。
そのため、次の図のように空気を両サイドから舌を避けるように流して音声を出します。
日本語と英語で「側面接近音」に該当する音声はこちらになります。
日本語 | 英語 | |
---|---|---|
両唇音 | − | − |
歯音 | − | − |
唇歯音 | − | − |
歯茎音 | − | [ l ] |
後部歯茎音 | − | − |
そり舌音 | − | − |
硬口蓋音 | − | − |
歯茎硬口蓋音 | − | − |
軟口蓋音 | − | − |
口蓋垂音 | − | − |
咽頭音 | − | − |
声門音 | − | − |
側面接近音は、日本語と英語に限定すれば、「 L 」の発音だけになります。
まとめ
今回は、調音法について紹介しました。
日本語にも英語にも、さまざまな調音法で発音が作られていることが伝わったでしょうか?
調音法を「どの調音点で行うか?」で違った音声になります。
調音点(発音される場所)についての記事もぜひご覧くださいね。